特集 耳鼻咽喉科診療の経験と批判
慢性副鼻腔炎の手術による治り難さについて
高橋 良
1
1東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室
pp.753-756
発行日 1970年10月20日
Published Date 1970/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492207529
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Ⅰ.はじめに
耳鼻咽喉科の診療の中で慢性副鼻腔炎についての経験と批判について述べよとのことであるが,ご承知のように,この中にはいろいろのことが含まれていてしかもそれらの全部についての経験を限られた紙数の中にうまくまとめることは到底できそうもないので,慢性副鼻腔炎の手術をめぐつて特にその治り難さに重点をおいてのべてみたいと思う。
もともと治り難さなどという言葉は臨床経験そのものズバリの言葉であるが,その解明ははなはだ複雑で厄介であり,人の副鼻腔炎を動物で再現することが至難であるので,一層その解決は容易ではないが,しかし結論を先にいわせていただくならば,解明の方向付けは十分にできているものと思う。
ここで古くからの成書や文献を通して欧米の今日までを思い出してみると,外科的処置の一法としてすなわち化膿巣に対する処置として副鼻腔の根治手術が行なわれ始め,それが不成績と判り始める内に副鼻腔粘膜の機能やその可逆性が問題となり始め,アレルギーの概念も入り混じつて副鼻腔炎の適切な治療法(手術法)が解明されないままに強くアレルギーが打ち出されて今日に至つているようで,何か本症が本症らしい治療法の見出されないまま肩すかしを食つたような状態で,そのまま本症の頻度の多いわが国にバトンタッチされたかのような感を受ける。しかしわが国の本症に対する研究はその後漸次実を結びつつ今日に至つており,何とか治癒せしめ得るという方向付けはできているのではないかと考えるのである。すなわち治り難い疾患ではあるが,なぜ治り難いかということが闇雲ではなくて何とか判つてきたので治せる圏内に十分入つて来ているということである。
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