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I.まえがき
過去数十年間,外国特に米国では小児副鼻腔炎の研究が旺んで数多くの業績が発表されたきた。或る時期には本症が関節炎や其の他の系統的疾患のfocusとして注目を浴びた。又本症とアデノイド及び口蓋扁桃との関係は常に重要な問題として論議されてきたものでDeanなどは小児慢性副鼻腔炎の80%はアデノイド及び口蓋扁桃の手術で治癒せしめ得たと報告している。併しながら此の問題も甲論乙駁で充分な意見の統一は得られていない。更に小児副鼻腔炎については,成人の慢性副鼻腔炎の淵源であるという考え方もあるが,又反面小児期の副鼻腔炎は亜急性のものが多く,可逆性で自然治癒するものも尠くないという考えもある。何れの場合も真理であるとしても,あまりにも抽象的であつて,もつと具体的に解析されて理解されなければならない問題である。症状も主なものは鼻漏,鼻閉,口呼吸であつて,しかも無自覚なものが多いので一般に問題にされない傾きがある。併しながら咳嗽,喀痰,咳ばらい,声がかすれる等の咽,喉頭附近の不快症状も本症との関係が看過されていることが多い。又耳管炎,中耳炎,慢性感冒,反復性気管支炎,Sinobron—chitis,Bronchiectasisなども副鼻腔炎と因果関係をもつていることが屡々である。其の他疲れ易い,無気力である,いらいらする,顔色がすぐれない,注意が散漫,食欲不振,起床時の悪心,嘔吐,胃腸障害なども見逃せない随伴症状である。米国の小児科医Edward E.Brownは1950年"Fifty Symptomes of chronic sinusitis in children with differential diagnosis of each sy—mptomes"という題で小児副鼻腔炎の症状やそれに関連して起る疾患について50の症状を挙げて論じているが,それによるとわれわれが日常看過しているような症状や疾患について指摘しており,小児科疾患の多くのものに関係をもつていることを述べている。又氏は小児の口呼吸は"ade—noid facies"の一つの症状とされているが,之はむしろ"sinusitis facies"というべきであると言つているが之も玩味しなければならない言葉である。此のように兎角等閑に付されている症状にも保健上の見地からもつと検討されなければならない問題がある。其の他小児の慢性副鼻腔炎の成因として,アレルギーや体質,素因などの問題についても依然として難問題として残されている。
小児慢性副鼻腔炎の治療に対しては半ば放棄的な考え方が支配的であつて,兎角漫然と対処される傾向があるが,局所病変の詳しい観察や,副鼻腔の発育特に顔面頭蓋の中で占める相対的な大きさや,発病機序特に全身的影響の観察などによつて,その病態を理解することが出来ればもつと合理的な対策なり治療が生れてくると考えるのである。
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