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I.はじめに
酵素学の進歩は生体に多数の酵素系を明確にしたが,近年持に研究者の関心を集め独自の学問的意義を持つて研究されているものにplasmin系がある。plasmin,すなわち線維素溶解酵素fibrinolysinはその名のごとく血液凝固系に属する一部系酵素であつて,これまで血液凝固の面からのアプローチがその研究の主体となつていた。しかし種々の条件下における生体反応を体液面から調べてみると,plasminは血液凝固のみならず生体の生理的平衝を保持するのに大切な役割を果していることがわかる。その中でも炎症とplasminとの関係はかなり直接的であることが証明され,以来炎症性病態における線溶系の意義が急に重要視されるようになつた。
炎症時に見られる線溶活性の亢進は多くの研究者の認めるところであるが,耳鼻咽喉科領域においても斎藤,広戸,佐々木らをはじめ,これまで幾多の報告がある。さらに鼻咽喉頭が線溶系のうえで持異な存在にあることとも関係してplasmin系の研究は基礎的研究においてもかなり進んだ追求が行なわれている。ところでplasminが異常活性を示した時の病態は多くの問題を秘めているように思われる。中でも血液凝固因子の破壊・ACTHの分解bradykinin形成,そしてさらに免疫ガンマグロブリンへの影響などに起因する病態は注目に価するが,これら実験的諸事実から推察されることはplagmin値の亢進した状態においては反応はいずれも催炎症性に向つているということである。したがつて炎症時に異常活性を示したplasminを正常に戻すことにより消炎症作用が期待されることは当然考えられることであり,事実これまで抗炎治療の中心となつてきた抗生物質やステロイド主体の治療体系に新たにplasmin系を加えて,今まで以上の治療効果が報告されている。
抗plasmin剤として開発されたtransamin(Trans-4-Aminomethylcyclohexanecarboxylic Acid)は強力なantiplasmin作用を有し,径口投与にてよく腸管より吸収され副作用の少ない薬物とされている。このたび抗plasmin作用に基づく抗炎症作用を肉検討する日的でこのtransaminを咽頭疾患に使用し,その臨床効果について若干検討すべき試料を得たのでその成績を記してみたいと思う。
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