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Ⅰ.緒言
鼻感冒の成立機転に関しては,今日の医学をもつてしてもなお不明の点が多い。本症の歴史は,数千年前から急性鼻炎として了解する症状が存在したようである。その当時,印度,タルマッド,埃及などの民族間に流行した記載があるが,下つて西暦紀元前460〜370年Hippokrates5)により,動物の解剖学的根拠から鼻腔と脳髄とは薄い軟骨様物質を隔てて相隣接し,外気の乾湿によつて脳の湿度もまた左右されると考えられた。鼻カタルは不浄な体液が脳より排泄されるものとされた。その後Gallen5)(170)が脳内に形成された不浄体液の中稀薄粘液は篩骨孔より鼻腔に,また一部濃厚な粘液は,咽頭管によつて,咽頭の方に排除されるとした。この学説は16世紀まで信用されてきた。Gallen5)のあとにProtospatharius5),Vesal5)らが出てGallen5)の学説の誤謬を指摘したが,1614年Conardschneider5)が人間の解剖学的根拠から,篩骨板の小孔は嗅神経の通路で,鼻腔被膜は脳膜の連続ではなく,分泌物の源は鼻粘膜(Schneider氏膜)の腺組織であることを立証するに及んで,はじめて,Hippokrates,Gallenの説は根底から覆えされた。一方,本邦においては,奈良朝以前,隋,唐の医学が移入されて以来,本症らしい記載は梶原性全5)著(鎌倉時代)「萬安方」にある「鼻淵」がそうらしい。以後江戸時代宝永4年(1707)以来「風邪」の流行が種々の医籍ならびに随筆などに散見された。西洋では17世紀にSchneiderが鼻感冒に対する伝染説を唱え,その後1880年代より細菌に関する研究が盛んとなり,今日に至つている。ところが,Hassulauer5),Neumann5),Paulsen5),Hajek5)らの研究にもあるように,本症の鼻内より検出される菌は,健康者のそれと同種で,量的に多く,その他非病原菌の数が特に多いというだけであつて,急性鼻炎がすべて細菌で発生するものではない。1914年,Kruse5),1917年Dold5)らは,鼻汁中よりvirusを検出し,鼻汁中より細菌を分離したエキスをもつて人に感染させることができた。
しかしながら,Dochy5)の実験にもあるように全部に感染を起こすことは不可能であり,これもまた原因のすべてを占めることはできない。そこでさらにZarniko5),尾関5)らの細菌説および感冒説の合併説が行なわれるようになつた。ところが現在では,本症を含めて,気道性炎症を広義では「かぜ」症候群6)と解釈するのが通念のようであり,その原因について,南谷6)は,非感染性のものと感染性のものに分類し,後者が多いとした。Selyeは,「あらゆる疾病」は「ストレス」による内部適応失調症であるとしており,現在の所,広義の「かぜ」症候群および狭義の「かぜ」(=急性鼻炎)の成立機転に関する明確な説明がない。そこで,私は,薬理学,生化学,組織学,臨床学などの立場から文献を集録し,つぎのような機序を考えた。
The causative factor of acute rhinitis is considered to be a sum total effect of the bodily stress. Under a severe or a prolonged stress an abnormal metabolic process will be established in the body in general or a certain predilected area in particular, where normal functioning will be disturbed by either, over production of hormone or DOCA, or, undersupply of tissue oxydase. According to Selye the changes in the presence of hormone and Na ion are important elements in the cause of disease. The author is in full agreement with this theory.
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