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耳栓骨導差の現象が鑑別診断に応用され得ることを本誌26巻4号に於て発表したが,ここでは本現象が如何なる機転によるかを詳細に述べたいと思う。耳栓骨導差の成立機転は第1図の如く考えられる。頭蓋の一部(例えば乳嘴部)に当てた骨導受話器より発する音波は頭蓋の各方面に伝播されるが,蝸牛殼に到達するものとして5本の径路A,B,C,D,Eが考えられる。これらの径路の夫々の音波の強さは音源の直下即ち起始部に於ては互に等しいが,終端である蝸牛殻に達した強さa,b,c,d,eは等しくないと考えられる。
その理由はこれらの径路に於ける音波の伝導抵抗が夫夫異なつていると考えられるからである。音波の反射及び屈折の原理によれば2媒質間の音響抵抗(媒質の密度と音速の積で伝導抵抗でない)の差違が小なれば小なる程,両媒質境界面に於て生ずる音波の反射は少くなり透過は増加することが認められている。この原理より径路A及びCは骨質と空気に於て非常に大なる音響抵抗の差を有しているのでその境界面に於て図の矢印の如く殆んどの音波は頭蓋骨質内に反射されて外耳道或は中耳腔の空気に伝導される音波の強さは著しく減弱される。径路Bにでも同様に鼓膜輪に於て大なる伝導損失を有している。何故なればTroegerの測定によれば鼓膜の音響インピーダンスは広い音域に亘り空気の音響抵抗値に近いからである。径路Eも槌砧回転軸及び靱帯の骨壁との附着部が小でありそれらの音響インピーダンスも小であるため該附着部に於て大なる伝導損失を有していると考えられる。ただ径路Dのみが蝸牛殼液に対して比較的小なる伝導損失を有していると考えられる。即ち蝸牛殼液と骨質との音響抵抗の差は空気と骨質との差よりも遙に小であつて伝導路も広いからである。以上を要約すると径路Dを通る音波は他の径路よりも減弱することが少くして蝸牛殼内に達するから骨導の主要路と考えられる。
"The mechanism of the blocked bone conduction." Y. Onchi The author explains the mechanism of the thresholdshift of bone conduction test with the auditory canal blocked. He thinks that there are five main paths of bone conduction propagating sound waves from a bone conduction reciever to the cochlea and that the path leding from a BC reciever through the cranial bones, the auditory canal, the tympanic menbrane the ossicular chain to the cochlea is the only one responsible for the threshold shift of the blocked bone conduction test. He confirms through some experiments that the threshold shift of blocked BC depends upon the sound amplification function of the middle ear.
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