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鼻科手術に於けるカリクレインの一使用方法
地引 利之
1,2
1日本医科大学耳鼻咽喉科教室
2市立酒田病院耳鼻科
pp.619-621
発行日 1962年7月20日
Published Date 1962/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492202886
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I.緒言
Kallikreinは1928年にE. K. TreyとH. Krautにより生体内血液中に発見された。それ以来,種々の臨床実験を経て血液循環系にホルモン的に作用する事が判明し,現在では,本態性高血圧症をはじめ,各種の循環系機構の失調症に応用され好評をはくしている。分子式は未だ不明であるが,生体内では膵臓に比較的多量に証明され,膵臓がKallikreinの産生場所だと考へられているが,之には異論も出ている。又,唾液腺にも証明される。然し,膵臓及び唾液腺より分泌されたKallikreinは不活性型で,内分泌的に或は外分泌的に分泌され吸収されたKallikreinは,腸液により活生化を受け,始めて生体に作用する。その主なる作用は血液循環の調節作用具体的には細動脈及び毛細血管の拡張作用である。然し,Kallikreinの血管拡張作用は,血液循環系に一様に起るのではなく,時に心臓の冠状動静脈,脳,皮膚等等に優先的に起る。その結果,脈搏振幅の上昇,搏動数の増加,分時搏出量の増加,及び平均血圧の下降が見られる。
本態性高血圧症に対するKallikrein療法の効果は,臨床各医家の汎く認める所であり,筆者も本症の治療には先ずKallikrein療法を試みている。偶然,本症に巨大なる鼻茸数コを合併せる症例に遭遇した。先ず血圧の治療にKallikreinを使用し,健常と思はれる血圧に復した所で,鼻茸の剔出を行つた。術中出血は多量であつたが,翌日タンポン除去に際しては豪も出血を見ない。そこでKallikreinの一臨床応用方法を考案し,予期せる好結果を得たので以下症例を追つて述べる。
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