特集 出血と止血
I.総論
1.耳鼻咽喉科領域に於ける出血及び止血の機序
白岩 俊雄
1
1東京医大
pp.277-281
発行日 1961年4月20日
Published Date 1961/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492202644
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I.はじめに
耳鼻咽喉科で取扱う部位の大部分は粘膜である。従つて出血も殆んどが粘膜出血であり,止血操作も粘膜の処置である。処が我科領域の粘膜は人間の五感中の四感を司つている。嗅覚,味覚,聴覚及び触覚がそれである。換言すれば我々の領域は人体の中で最も多くの種類の,而も鋭敏な,感覚粘膜を取扱つているのである。従つて粘膜自体の構造も,夫々の機能に応じて単純ではないし,そこへ分布する血管も豊富に,複雑にならざるを得ない。之が破綻して出血するのだから厄介である。止血操作の対象は感覚粘膜で鋭敏である。触れただけでも嚏や咳嗽や流涙や絞扼反射等を起し,貧血や嘔吐の原因となる。
加之,出血部位は狭く,深く,凹凸不平な暗黒部位である。出血点の確認と出血状況の把握は止血の為には絶対必要ではあるが,寧ろ困難な場合が少なくない。この為の失血が往々にして患者を重篤な状態に陥れる。止血が第一の緊急事である。勿論この様な場合,外科的の止血器具などは気休めにもならない。結紮,縫合すらが不可能な部位の方が多い。上顎洞手術の場合に止血鉗子が一本も用意されていない事を,我々は気付かずにいても,外科の人には思いもよらぬ事なのである。
Copyright © 1961, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.