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Vitamin B2(以下V-B2)は生体内代謝即ち糖類,脂肪,蛋白質代謝の過程に於て必要欠くべからざる物質であることは今更多言を要しない。このV-B2が生体内で作用するのは,その燐酸エステル型のFlavin-mononucleotide(以下FMN)及びこれにアデニール酸の結合したFlavin-adenine-dinucleotide(以下FAD)となつて,代謝過程に必要な各種酵素の補酵素として作用するのである。特にこの両者の内ではFADがFMNより更に多くの酵素系に対する補酵素となつている。この様に生体内代謝過程に必要なFADが特に解糖呼吸系が主である脳組織内の代謝に重要な役割をなしている事より,渡辺,八木氏等は機能低下を来たした脳細胞に対して賦活作用のある事を実験的に証明し,更に臨床的にも脳外傷後貽症,脳溢血後貽症を始めとし,その他の機能低下を伴う脳神経諸疾患にFADを頸動脈内及びルンバールに使用して極めて顕著な成績を得た事を報告している。
他方,SMによる難聴に就いてはHinshow,Feldman(1945)以来多数の研究が行われて来たが,その本態に就いては未解のままであつた。所が近年中村教授及び水越氏によりSMによる聴器障害は「内耳に於ける血管帯より始まり二次的にコルチ氏器の有毛細胞及び支柱細胞に至る含水炭素を基礎とする代謝系の障害と中枢部に於ける同様な障害及び内耳よりの二次的上向性変化」がその本態であることが発見され,これ等解糖呼吸系障害より連鎖的に蛋白,燐,脂肪等の代謝障害へと発展して行くことが判明した。然し乍らSM投与によるこの様な聴器の解糖呼吸系の障害は代謝のどの過程に於て障害を受けるかに就ては未だ充分に解明されてはいない。他方SMの作用機序と代謝の関係に就てFitzgerald,須田等が結核菌に就いて行つた実験に於いては,SMが結核菌の核酸代謝を障害する事を認めその際にSMは核酸代謝に必要な適応酵素の生成を抑制すると云つている。これ等の点より著者はSMによる聴器に見られる解糖呼吸系の障害も,それに必要な酵素系の抑制が原因で,これによつて起る代謝障害が機能低下を来すものと考え,渡辺,八木氏等が行つた如く,SM難聴にFADを頸動脈内注射を行つた所,認むべき結果が得られたので報告する次第である。
For the treatment for recovery of hearing in 8 cases of streptomycin deafness administration of flavin-adenine-dinucleotide FAD is tried with findings of effectivity in 4, slightly effective in 2 and with no effect in the remaining 2 cases. The agent is given directlyinto the carotid artery. The drug is characterized by being effective towards recovery of hearing where use of other agents had failed but, in cases where such losses are severe and long standing it also has no effect. The author believes the mechanism with which the loss of hearing may be recovered to be the result of reactivating the metabolic processes that had been in some way rendered sluggish.
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