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緒言
我が鼻科領域と歯科領域とが各種の方面に於て互に密接なる関係を有する事は今更めて此処に贅言を要しないが,此処に報告する逆生歯牙症例も其の内の一項目である。
歯牙が其の発生する部位を誤つて鼻腔内或は上顎洞内に出現し,若しくは此れに類似した位置異常を示す事は稀有ではないが,幾多の解剖学者,鼻科学者,歯科学者が珍稀なる症例,或いは臨床上意味ある者として記載報告された文献は多数見る事が出来る。最も古い文献は1754年Albinusの報告で,次いで文豪Goetheが1797年の瑞西紀行文中に19歳の女子の不幸なる転帰をとつた症例を記載して居り,此れはE. Aron(1920年),O. Kahler・Gerber(1905年),村上正徳氏等が引用して居る。又1892年Zuckerhandl,1900年Heymannが詳細は綜説を述べて居る。本邦にては,最初に鼻腔内歯牙発生を報告したのは明治34年(1901年)金杉英五郞教授で,次いで高田千賀太氏及び西山信光氏(明治36年),上野策也氏(明治37年),河野司馬造氏(明治39年),加納和夫氏(明治40年)等々にて,上顎洞内に逆生せる歯牙については久保猪之吉教授(明治40年)が最初であつて,伊藤薫一氏及び和田徳次郞氏(明治42年)が此れに続き,爾来多数の報告者が輩出するに至つた。尚,鼻腔内,上顎洞内両者への逆生歯に関する統計に就いては石井正氏の詳細な報告がある。吾々は最近興味ある所見を呈して逆生歯に依る上顎歯牙嚢腫の1症例を経験したので,此処に文献的考察を併せ報告する次第である。
Hirano and associates report a case of supernumerary tooth that formed a dental cyst which invaded the anterior wall of the maxillary cavity as well as its medial wall including the attachment of the inferior turbinate. Seventy seven other similar cases are reported in the literature of this country since 1940 to 1956.
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