特集 副鼻腔炎の病理と治療
副鼻腔手術と全身麻酔
名越 好古
1
1東邦大学
pp.1033-1043
発行日 1956年12月25日
Published Date 1956/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201699
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まえがき
外科臨床の発達の歴史は麻酔の進歩と共に発達して来た。第二次世界大戦終了後アメリカより新しい麻酔特に全身麻酔に関する麻酔剤,器械,手技方法等が紹介されるに及んで外科臨床は驚く可き進歩をとげたのである。これは抗生物質等の出現が治療界を一変せしめたのと共に戦後に於ける医療界の二大革命である。このような麻酔の進歩は従来単に術中の疼痛を無くするだであると考えられていた麻酔の概念を一変させ,麻酔担当者の仕事は術前,術後を通じて麻酔に関して患者の全身状態を管理するという非常に宏い範囲にまで拡大されたのである。したがつて術者は手術に際して,安全に,時間に拘泥されることもなく,思うぞんぶんの手術を施し得る様になり,手術適応範囲も非常に拡大されたのである。嘗つて短時間に,鮮かに手術を終了した。いわゆる外科の名医という名前は既に過去の代名詞となつてしまつたようである。我々メスを持つ鼻科領域にもかゝる事実が起りつゝあるのでせうか。
耳鼻咽喉科領域の手術は従来多くは局所麻酔によつて行われて来た。勿論副鼻腔の手術に際して私共も勿論局所麻酔によつて実施してきたし,上顎全摘出のような大手術でも特に不便を感ずる事もなく過して来たのである。しかし局所麻酔のみでは完全無痛にすることはなかなか困難であるばかりでなく,患者の手術に対する不安と恐怖は取除くことは出来ないのである。経験からみても局所麻酔のみで全身麻酔下の手術の如く静かに実施されることもあるが,又相当わめき立てる様な始末の悪いものもあつて,いらいらした不愉快な手術を忍ばなければならない様な場合もあつて,すべて一様にゆかないことは誰もが経験されていることと思う。
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