特集 副鼻腔炎の病理と治療
小児副鼻腔炎
名越 好古
1
1東邦大学
pp.932-942
発行日 1956年12月25日
Published Date 1956/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201690
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まえがき
Denker u. Kahler Handbuchの小児副鼻腔炎の項を見ると,主として急性副鼻腔炎について述べており,その内でも特に急激な臨床症状を現わす重症型のものを中心に論じている。今日我々が大きな問題として取上げている慢性型のものについては殆んど記載がなく,むしろこれらは慢性鼻炎の項に一括されている様である。しかしこの方面における欧米の関心はかなり古くから払われており,特に1920年以後は其の業績も数多く見られているのである。
小児の急性副鼻腔炎,特に乳幼児期に見られる骨髄炎性の副鼻腔炎においても化学療法の進歩した今日では,比較的容易に治癒せしめ得る様になつたことは諸家も経験された事と思う。しかし慢性型のものになると化学療法という偉大な武器もあまり威力がなく,依然として難治の状態にある。しかもこれら慢性型のものは発病時期すら明かでなく,本人も自覚症を訴えることが少く,したがつて「2本棒」でも垂らしていなければ周囲の者もあまり気に掛らないのである。まして後鼻漏となつて嚥下されている場合は近親のものすら識らずにいる場台が尠くないのである。更に驚くことには小児の鼻漏を病的産物と思つていない親もいまだに決して尠くないことである。また逆に診療を求められた場合に適切な診療方法がない,或は治療を実施することが困難であるという場合が多く結局放置されている場合が多いのである。実際に本症は精神機能に及ぼす影響は無視出来ないとしても,生命に関する限りは殆んど問題ならないのである。かかる小児期における本症の特徴は,従来小児副鼻腔炎に対して積極的治療或は研究を阻害して来た主な原因であつたと考えられる。
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