- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
緒言
日常生活では障害を起さなかつたものか,特殊な環境にあつて始めて我が科領域の苦痛を訴える場合がある。此処では其の特殊な環境として航空等の低圧性変化の急な場合を扱うことゝすると,それには先ず耳管機能失調や之れと所謂潜在性耳管狭窄との関係による航空時症状或いは航空性中耳炎があり,次いでは之れに類似した機転が副鼻腔にも起り得るものである事が知られて居り,之れが今回報告する所謂気圧性副鼻腔炎である。此の急激に起る低圧の中耳えの影響と副鼻腔えの影響との間で異なるのは,其の外気と連絡する開口部の状態と各腔粘膜の既存状態とが異なる為,以後述べる様な成立条件を異にする丈である。
さて急激な気圧変化に依つて起きた耳管機能失調に依る中耳の圧力性外傷を気圧性中耳炎乃至航空性中耳炎(barotitis aerotitis)と称する如く,此の副鼻腔の気圧変化に依る障害は気圧性副鼻腔炎(barosinusitis)と呼称されているのであるが,気圧性中耳炎に於いては中耳に予め何んら病変なく気圧変化の激しい環境に於ける耳管機能の障害によつてのみ初めて生ずる場合もあり,斯る場合が純然たる非感染性の外傷性炎症であると云い得るのに対し,気圧性副鼻腔炎に於いては其の開口部が中耳の場合の管状(耳管)なるに比し,遙かに広く且其の長さが短かく,従つて多くの場合窓状をなすと云う解剖学的条件に基き,予め副鼻腔に或る程度以上の病的変化があつて粘膜の浮腫,肥厚等がなければ,副鼻腔障害を成立せしめる様な換気障害を来たすものでないとされている。従つて仮令腔内圧と外気圧との間の平衡が破れて中耳に於ける様な気圧外傷性炎症が生ずべき条件を来たしたとしても,それだけが気圧外傷性炎症としての気圧性副鼻腔炎の原因と見徹し得るか否かは問題である。尚中耳腔と副鼻腔との粘膜素質が異なる為か又腔の大小の相違等による為か,副鼻腔に於いては中耳腔に於ける気圧性外傷の如き系統的な病変の機序,即ち陰圧→粘膜浮腫→濾出液→血性滲出液と云う過程は一般に認められない。そこで以上の如き従来からの考え方に以つてすると,気圧性副鼻腔炎は既存の慢性鼻副鼻腔炎が気圧変化に従つて特異な症状を現わした場合を称している様であり,従つて一つの疾患名として取扱うのは多少無理の様な所もあり,それが所謂気圧性副鼻腔障害として取扱われる所以であるが私共は純然たる気圧性副鼻腔炎と称しても良いと思われる例を認めているので,之れに就いて検討すると共に私共が気圧性副鼻腔炎を如何に考えているかを報告し度いと思う。
The term, aerosinusitis, has been applied a condition, Where a flare-up of an acute sinui-sitis may be met with in a person who is found to be affected with chronic sinusitis, caused by exposure to sudden, intense, atmospheric pre-ssure changes, decompression, as in flights. Whether this condition shoul dnot be called a syndrome instead a disease is questionable. Ho-wever, the authors find that, in some cases such a syndrome or disease may be brought about in aviation and in mountain-climbing without the effects of the preexisting chronic sinusitis. For the purpose of clarity in the understanding of the condition, the authors propose the divi-sion of aerosinusitis into following classifica-tions:
1. Acute Decompressive Sinus Syndrome.
2. Acute Aerosinusitis.
3. Chronic Decompressive Sinus Syndrome.
4. Chronic Aerosinusitis.
5. Decompressive Syndrome added to Chro-nic Sinusitis.
Copyright © 1956, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.