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序
敗戦後,政治の貧困と思想の混乱は国民経済の荒癈と相俟つて,生活の不安をもたらし本邦に於ても刻々神経症増加の傾向にあり,神経症なる言葉は今や現代用語にまでなつて来た観がある。この時に当り,主として米国に於て唱導された精神身体医学が,本邦に於ても晴天の霹靂の如くもてはやされる様になつたのも無理のない所であろう然し乍ら其の学問或はその学研態度は必ずしも事新しいものではなく,その根本精神は既に1918年に故森田正馬教授が唱えられた所謂森田神経質学説のそれと異る所はない。思うに精神身体医学は,Neo-Freudismと森田説のの抄衷説の如き観がある。この事実は最近漸く内外の学者の認めつつある所であるが,森田説を継承する学者が比較的少かろた事は遣憾に耐えない。然し乍ら本学に於ては高良教授は神経質者の性格特徴を明かにした他宇佐,堀田,中川,長谷川,竹山及び下田氏等の研究がある。又本学説は唯精神神経科領域のみならず,内科(古閑),泌尿科(北川),耳鼻科等に於ても広く着目されている。即ち,鼻科領域に於ては1943年の耳鼻科学会総会に於て本学高橋助教授が之を取上げたのを嚆矢とし,次で1946年に西端教授は鼻疾と神経質との関係に関して論述を臨床耳鼻咽喉科誌上に述べられ,間もなく同大学の蔡氏が耳鼻咽喉科第24巻に,「鼻疾患に於ける神経症の研究」の発表をしている。
此処で森田神経質学説なるものを極く簡単に解説すれば,氏は先ずベアードの命名による神経衰弱症の批判をなし,本症は神経系統の疲憊に基くものではなく,従つて所謂神経衰弱の大部分及び強迫観念等は,単に神経質の範囲に属すべき事を強調し,更に神経質発生の基礎をヒポコンデリー基調に置き,精神交互作用と自己暗示作用に依り成立すると説いた。又氏の所謂森田式療法は独創的劃期的なものがあり,遙か遅れて発表された精神身体医学派のDynamic PsychotherapyやDirective Psychothearpy又Psychoanalysisとも殆んど異同が判らない程のものがある。私は鼻性神経症の治療に森田療法を応用し,好成積を收め得た例を相当有するが,之に就ては別の機会に述べてみたい。
Ishii emphasizes the necessity of considering nesal troubles from the view point of neurosis. The interpretation of the term neurosis is taking a newer aspect with the progress of medicine, particularly in recent year when psychosomatic concept is come to be stressed. In spite of the fact that the field of otolaryngology particulary the symptoms of nasal troubles being closely related to those of neuro-psychosis very little attention has been paid toward evaluation of the troubles according to this basis. The author employs Marita's and other methods which concerns with detection of elements relative to neurosis in making diagnosis of nasal troubles.
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