目でみる耳鼻咽喉科
特発性鼻性髄液漏の1例
田中 伸明
1
,
石井 香澄
1
,
高野 信也
1
,
荒牧 元
1
1東京女予医大第二病院耳鼻咽喉科
pp.228-229
発行日 1998年4月20日
Published Date 1998/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901745
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水様性鼻汁をきたす疾患の1つとして,髄液鼻漏も念頭におかなければならない。しかし,髄液鼻漏の多くは外傷性,すなわち頭蓋骨骨折や手術損傷に起因することが多いため,特に既往歴のない水様性鼻汁に対してはアレルギー性鼻炎や,感冒として治療が行われることが少なくない。今回われわれは,稀な特発性鼻性髄液漏の1例を経験したので報告する。
本症例は62歳の女性で,平成8年7月30日,突然左側からの水様性鼻汁を認めたため,近医を受診した。感冒,アレルギー性鼻炎として治療を受けたが症状が全く軽快しないため,同年9月2日当科初診となった。家族歴は特記すべきことなく,既往歴も高血圧のみで外傷や頭部手術の既往はなかった。鼻内所見も異常を認めないが,下を向いて腹圧をかけることにより一側性の水様性鼻汁滴下が増悪した(図1)。1日に流出する鼻漏は約50mlから100 mlほどで,糖定性検査は陽性,タウトランスフェリンも陽性だった(図2)。また,全身状態は良好であり,髄液検査では髄液圧は正常で,感染を疑わせる所見も認めなかった。嗅裂部に異常所見はなかったがアリナミンテストは陰性だった。画像検査では,頭部の単純CTで鶏冠レベルの左篩板にごく小さな骨欠損を認め(図3),左篩骨洞内へ髄液の流出と思われる所見が認められたが,その他の骨折または骨欠損はなかった。さらに脳槽CTでも左篩板から左篩骨洞内と鼻内へと造影剤の流出が認められた(図4)。MRIのT2強調画像では左後篩骨洞内に髄液と思われる高信号域が認められた(図4)。病歴より外傷や手術歴がなかったため,特発性鼻性髄液漏と診断した。
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