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本手術々式に達するまでの經路
現今廣く行われているZaufal,Stackeの中耳根治手術は手術創が全部表皮化される迄の經過が非常に長いことが屡々で.表皮の移植術等により之を著しく短くすることが可能ではあるが,歐氏管開口部の閉鎖が常に容易であるとは限らず,從つて其部を中心として創面乾燥が困難なることが珍しくない.又耳後部開放創の二次的縫合を行う必要に迫られる場合も亦好ましいものではない.且表皮化を終つた後には,耵聹腺の存在等による多量の痂皮形成が繰返し見られるのも甚だ不愉快な現象と見做さるべきで,之等は皆獨斷的な根治とゆう文字に對して餘りにも相應しくない.本手術を乳樣突起鑿開術に於ける如く3週間程度で全治せしめ而も後々迄も見た所もきれいに,痂形形成の處理の如き手數の懸らぬ樣に出來ぬものだろうかと考えて研究を始めた.
昭和13年北川は文献に惠まれぬまゝに,慢性中耳炎眞珠腫形成の1症例にZaufal氏手術を行い,之に次の如き變法を試みた.歐氏管開口部を出來る限り鋭匙で掻爬後,外耳道軟部を前後壁共充分に剥離絹糸で之を袋状に縫い,耳後部創の大半を一次的に縫合,一部に小ガーゼを排膿用に挿入3日位で之を除去し,外耳道縫合の絹糸は1週間後抜いた所,約1ケ月を以て乳樣突起鑿開術の場合と全く同樣に全快し,唯外耳道が極めて淺くなり,その後も經過順調なるのを見た.所が續けて同法を試みた同樣の5症例は全部失敗に終つた.失敗の主なる原因は何れも歐氏管開口部が完全に閉ぢないからであつた.其後は專ら手術直後に上膊内側からの表皮の創面移殖術を試みたが,歐氏管開口部が乾燥するものは極めてよく創面の表皮化が成功したのに反し,そうでないものは大した効果を見なかつた.移植術に方つては,錫紙を創面に壓して鑄型を作り,之を取り出して其表面に1枚の錫紙を其形に貼り,更に其上に表皮を戴せて全體を創面に挿入し最初の鑄型丈を取り出すと,極めて具合よく表皮を創面に固着せしむることが出來た.又歐氏管に封しては齒科用抜髄針を用い殆んど其全長に亘つて其粘膜表面の掻爬を丹念に行つたが結果は見るべきものがなかつた.抜髓針の使用は少しく出血を來すが危險なく容易に鼻咽腔開口部近く迄挿入することが出來る.歐氏管開口部への腸線の挿入,藥物による腐蝕等も役立たなかつた.
Author reports 10 cases of middle ear operation using modified Zaufal's method. The method is as follows: After detaching the mucosa of the auditory tube from its tempanic orfice to the isthmus, the tube is closed by stuffing a piece of bone obtained from the cortex of the mastoid process. The soft tissues of the canal and the tempanic membrane are left intact. The retroauricular wound is then primarily sutured. By the use of this method the external auditory canal gives almost normal appearance and will not give rise to scar formation.
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