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顎口虫症の臨床的観察
上野 賢一
1
1東京大学医学部皮膚科教室
pp.679-683
発行日 1956年10月1日
Published Date 1956/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1491201778
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今日本邦に於ける顎口虫症としては,患者が嘗つて中国その他日本の国外に於てこれに感染して帰国,現になお罹患するものと,国内に於て主に雷魚の生食に依つて感染し,これ亦現になお罹患するものと,この両者即ち外地性及び内地性顎口虫症と考えることが出来る。後者内地性顎口虫症の病原虫として本邦に存在する顎口虫種,その第1,第2中間宿主及び固有宿主のことは最近宮崎(一郎)その他の研究に依つて逐次明かとなつた。一方主に雷魚の生食に依ると思われるこの内地性顎口虫症は各地,但し主として九州,四国地方に依然として或ば小流行をなし,或は散在しつゝある。
顎口虫症の診断に,或は本虫の感染を証明するに有力なるものは虫体エキスを以てする皮内反応であり,これを以てする時は単に各種の症状,高度の好酸球増多の存在等から推定する以上,より確実に本症又は顎口虫感染の存在を決定し得,病原虫を摘出し得た場合にはやがて本反応は陰性化する。浩し又アンチモン剤等を使用して,或いは又自然的に病原虫が死滅するに至れば,その場合にも本反応は恐らく陰性化すべく,即ち今日顎口虫皮内反応は極めて有力な治癒決定手段たるの観があるが,一方本症の治療には偶々皮膚の極めて上層に存在する病原虫を摘出する以外には,今日有効なものがないのは遺憾である。しかも病原虫は人体内に極めて長く生存し,その間又甚だ長い期間を隔てゝ皮膚腫張が出没する点,本症は極めて厄介な疾患と云わざるを得ない。
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