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この数年間,国立大学病院の定員削減と予算削減の波には尋常ではないものを感ずる.これでわが国の将来の医学・医療は本当に大丈夫なのだろうか.国立大学病院が一般病院と異なる点は,診療と同時に教育と研究をその使命としていることにある.ところが,最近耳にする言葉は,「定員を削減する」,「週休2日制にする」,「医療費を節約せよ」,「病床稼働率を上げよ」,「診療収益を上げよ」,「研究したければ委任経理金を稼げ」,「予算がないから空調や清掃にまで手が回らない」などと,およそ最高学府とは考えられない,次元の低い話ばかりである.残念ながら現在国立大学病院は学問を行ったり,最先端の医療を行うのにふさわしい環境にはない.こういう状態が続けば,医学・医療に対する魅力が失われ,若い優秀なスタッフの士気も次第に失われて行くであろう.ある統計によれば,わが国の医師の中で将来自分の子弟が医師になることを希望しているものは僅か20%に過ぎないという,何とも悲しい状況になっている.将来,わが国の医学・医療が質的に貧困化することは明らかである.
どうしてこうなってしまったのであろうか.諸悪の根源は,行政改革路線,大判振るまいの海外援助にあると思われる.事務処理をOA化して「小さな政府」を目指すことは結構である.しかし,医療や教育の現場まで他の部署と同一の基準で合理化されては困る.わが国の病院の中で,診療設備が最もお粗末なのは国立大学病院であろう.建物が老朽化している上に汚く,冷暖房にさえ時間制限がある.いくら熱帯夜であろうと夜間は冷房が効かない.健康人が住む一般住宅にすら空調がある時代に,どうして重病の患者が療養している国立大学病院で空調を制限しなければならないのだろうか.ODAやPKOも確かに国の重要な施策であろうが,政府は国内の実情にももっと気を配って欲しいものである.
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