扉
医療におけるトレーサビリティ確保の重要性—ビッグデータの時代に向けて
落合 慈之
1,2
1東京医療保健大学
2NTT東日本関東病院
pp.907-908
発行日 2016年11月10日
Published Date 2016/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436203401
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トレーサビリティ(traceability)とは,trace(跡をたどる)とability(能力)より成る合成語である.国際標準化機構(ISO)によれば,それは「考慮の対象となっているモノの履歴,所在,適用を遡及できること」,また,欧州連合(EU)によれば,それは「予想される物質について生産,加工,流通,使用のあらゆる段階を通して,それらを追跡し遡及して調べる能力」と定義されている.
トレーサビリティというと,とかく,不良品の回収や感染経路の解明といった何か後ろ向きのイメージを想起しがちである.屍体硬膜によるプリオン病感染という苦い記憶を有する脳神経外科医にしてみれば,それはなおさらかもしれない.しかし,ここで重要なのは,上記の2つの定義からも読み取れるように,トレーサビリティには対象物を後方視的に遡及(trace back)できるとともに,前方視的に追跡(track forward)できるという2つの意味があることである.前方視するということは,目的に向かって正しくレールを敷き,その上を予め定めた計画通りに,対象物を過不足なくその状態の管理も含めて適正に送り届けるという意味にほかならない.医療におけるトレーサビリティの確保がその安全・質の向上・効率化に資する理由である.当然ながら,医療で使用される物品個々が正しく捕捉されるならば,医療に係るコストの節約にも直結することは自明である.
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