扉
本音とたてまえ
中村 紀夫
1
1東京慈恵会医科大学・脳神経外科
pp.335-336
発行日 1983年4月10日
Published Date 1983/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436201651
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朝目覚めてから夜眠りに就くまでの間に,身辺に発生し耳目に入る《本音》と《たてまえ》の出来事を数え立てたらきりがないであろう.ただ普段それと取りたてて考えないだけのことである.
本音とたてまえの隔りがあまりにも大きすぎて命を落したのが井伊直弼だといわれる.1853年,米国大統領の国書を携えて開国をせまったペリーに対し,彼の最初の上申書は,彼らを恥なき蛮夷とののしって攘夷の立場をとった.ところがそれは国内にひたひたと波打つ尊皇攘夷のたてまえを述べているのであって,第2回の上申書では一変し,鎖国を墨守しえずと本音の開国論を展開した.おそらく世間に受けのよいたてまえは貫きえないと知り,本音を主張して桜田門の雪を血に染めたのだという.
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