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本誌「扉」の黒田敏先生の「文武両道のススメ」に記されていたBo K. Siesjö先生の訃報には感慨深いものがある.かつて脳虚血の研究をした多くの先生方にとって,Siesjöという名前は,やはり特別ではなかろうか.脳虚血の生化学的解析を開拓した巨人である.30年前は,その著書『Brain Energy Metabolism』を小生も持っていたが,いつの間にかなくしてしまった.ご冥福をお祈りしたい.
𠮷田純先生の総説,「日本の遺伝子治療の夜明け」も大変興味深い.先端医療と共に歩んでこられた𠮷田先生ならではの時代の証言である.遺伝子治療研究の世界的趨勢から,2000年の悪性脳腫瘍に対するインターフェロン遺伝子治療の開始,名古屋大学における遺伝子治療と細胞・再生医療の研究開発体制の整備,そして今後の展望に至るまで,包括的に詳述されている.1980年の世界初の遺伝子治療から,様々なレギュレーションなど社会環境の整備と歩を合わせてわが国で脳腫瘍の遺伝子治療が開始されるまで,実に20年を要している.改めて先端医療開発と応用の困難さを思い知らされる.遺伝子治療にかかわらず,先端医療技術開発の本質的な難しさは,開発への時間・費用投資の物理的負担に加えて,それらの医療技術が患者の予後をよくして初めて世に残る点にあると思う.新たな医療機器も,実際に医療現場で使われてこそ初めて価値が生まれる.だからこそやりがいがあるとも言えるかもしれない.国策として医療・医療機器産業の推進が叫ばれる中,アカデミアの役割も変貌しつつある.アカデミアでの閉じられた専門知は産業としての駆動力になり得ないため,アカデミアが産業基盤の一翼を担い,企業と伴走しながら医療産業に資することが求められている.産学官連携関連のプロジェクトに巨額な予算がつぎ込まれ,日本版NIH構想も具体化しつつある.しかし医療イノベーションという観点からみれば,わが国の社会環境・教育環境・医療環境は,欧米に比してまだまだ改善すべき点があると思う.
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