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今月号の「扉」には,田口芳雄先生から「驕りと誇り」をいただいた.英語のprideは通常,「誇り」と訳されるが,「驕り」の意味でも使われることがよくある.患者取り違え事件以後の約10年間,それまでの「驕り」についてたたかれてきたわれわれ医師が,「誇り」をもって仕事に臨むことによって医療崩壊に歯止めをかけていく必要性を訴えておられる.先生のご指摘のように,研修医は能動的思考をする余裕がなく,目の前の患者に対応するための受動的思考で精一杯の現状がある.専門医を目指すのも大切だが,基礎・臨床研究に関わり,仮説を立ててそれを証明するという能動的思考,科学的思考の経験も「誇り」をもった医師になるためには忘れてはならないことである.「総説」は,高安正和先生の「脊椎インスツルメンテーションの進歩」である.この分野の第一人者の高安先生が,インスツルメンテーションの歴史を4期に分けて解説され,さらにご自身の経験から部位別に推奨される方法について具体的にまとめられている.ぜひ精読され,臨床の場で役立てていただきたい.その他にも,研究,テクニカルノート,症例報告など,今月号も情報満載である.
どこの病院でもしばしば問題になるのがカルテの保存である.特に,古くからある大学病院では,膨大な数と量のカルテが存在し,それをどこに保存するかに悩まされる.岡山大学医学部は150周年記念事業を検討中であるが,キャンパス内の古いカルテ(ここでいう古い,とは少なくとも昭和40年代以前で戦前のものも含んでいる)の扱いが問題になっている.執行部で,どこに保存するのか,そもそも保存すべきかどうか,などを縷々議論しているのだが,その過程で,いくつか学んだことがある.1つは,カルテは個人情報そのものであり,現在使っているカルテではその点に最も配慮が必要なのだが,すでに故人になった方のカルテは個人情報保護法の対象にはならない(例外はある)こと.2つめは,医科系の者にとってのカルテの重要性は,その内容の医学的側面にあるのだが,古いカルテの保存を最も強く求めるのは,文科系の教官であり,彼らは古文書としての価値を大切にするので,とにかく「一括して」保存することを求める,という点.これらの事情と,学内のスペースとのせめぎ合いが続いており,果たしてどう決着をつけるべきか,悩ましい日々が続いている.
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