コラム:医事法の扉
第32回 「患者の義務」
福永 篤志
1
,
河瀬 斌
1
1慶應義塾大学医学部脳神経外科
pp.1150
発行日 2008年12月10日
Published Date 2008/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100859
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われわれ医師には,医師法や医療法所定の義務がありますが,患者の義務を規定した法律はありません.また,医療者と患者が診療契約を締結しますと,民法に基づき,「受任者」たる医療者には,善管注意義務(644条),報告義務(645条)などの義務が発生しますが,「委任者」たる患者には,治療費を支払う義務(648条1項の反対解釈)と費用の前払いを請求された場合の支払い義務(649条)くらいしか発生しないように思えます.
しかし,患者には,診療契約に基づき,治療に不可欠な情報の提供義務(主訴,臨床経過,既往歴など)や,診療に協力する義務などもあるといえるでしょう.これらの義務は,契約の目的を達成するためには当事者の真摯な協力が不可欠であり,信義に従い誠実に行わなければならないもの(信義則上の義務,民法1条2項)と考えられるからです.もっとも,患者から自発的に医学専門的な情報提供を期待することは難しいので,医療者側から,適切な問診を行い必要十分な情報提供を促したり,遵守事項を告知したりする必要があります.
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