- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
6月に閣議決定された「骨太の方針2008」では,医学部学生の定員を「早急に過去最大程度まで増員する」との方針が打ち出された.医学部の定員削減に取り組むとした1997年の閣議決定が転換されることになり,医師不足が深刻な地域や診療科の医師を確保することを目的として,全国の大学で医学部学生の定員増が検討されている.この対策が効果を及ぼし始めるのは,定員増後の学生たちが医学部を卒業し初期研修を終了する約10年先になると考えられるが,医師不足に歯止めがかかりそうだという意味では希望を与えてくれる対策である.一方で,地域や特定の診療科での医師不足は緊急の問題であり,即効性のある対策の必要性は依然として残され,また同時に将来的な医師過剰の危惧についても検討しておかなければならないと考えられる.いずれにしろ同時並行で現在と将来の問題点を見極め,構造改革も進めておかなければならないのだろう.
さて,本号の扉では浜松医科大学の難波宏樹教授が「茶道と脳神経外科」と題した随筆を寄稿され,茶道の心と脳神経外科手術のそれとに多くの共通点があることを指摘されている.道を究めるとは,その物事に対する真剣度が凝集されていると言うことであろうか.両者とも厳かな中にも真剣に努めている情景が脳裏に浮かんできた.解剖を中心とした脳神経手術手技の欄では東京大学の川合謙介先生が「難治性てんかんに対する迷走神経刺激療法─刺激装置の埋込術─」を解説されている.医療機器として厚生労働省の認可が近いと考えられ,時機を得た内容である.総説では獨協医科大学の荻野雅宏先生らが「スポーツによる頭部外傷」を執筆されている.この分野の進歩は近年特に著しく,多くの文献を元に現時点でのup-to-dateな情報が記載されている.もう1つの総説は東京女子医科大学の林 基弘先生らが「本態性三叉神経痛に対するガンマナイフ治療」を執筆されている.ターゲットをREZ(root entry zone)とする方法とRGR(retro gasserian region)とする方法が紹介され,筆者らの治療成績も含め文献上の報告も検討されている.研究欄では保谷厚生病院の中岡 勤先生らが「頸動脈狭窄部位血管壁の新生血管による血液灌流─3次元real timeプラーク内灌流の観察─」と題し,超音波検査のharmonic imaging法により頸動脈狭窄病変のプラークの性状を評価する方法を報告されている.また,近畿大学の奥田武司先生らが「悪性リンパ腫におけるfluorescein術中蛍光診断の有用性」を報告されている.眼科領域での使用量の倍量を投与することにより,特殊なフィルターを使用することなく蛍光を観察することが可能で,そのカラー写真が印象深い.テクニカルノートの欄では東北大学の中川敦寛先生が「パルスレーザージェットメス─神経膠腫手術への臨床応用」を報告されている.東北大学で開発された脳神経外科手術用のデバイスで,これまでの使用経験を報告している.その他興味深い症例報告や連載記事で今号も充実した内容となっている.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.