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アダム・スミスといえば,資本主義経済論を説いた「国富論」の著者である.スミスは,経済成長の究極的な目的は何であると考えていたのだろうか.大阪大学の堂目卓生氏は,「スミスは幸福とは心が平静なことであると考える.そして,健康で,生活にとって必要最小限の富があれば,それ以上の富の増加は,われわれの幸福にとって余計なものであると考える.それにもかかわらず,人間は野心と虚栄心から,必要以上の富を求める.そして,資本家がより多くの富を獲得しようとすることによって,貧しい人々に対する雇用が発生する.彼らは,生産的労働者となって賃金を受け取り,極貧から解放される.一方,より大きな財産を形成した資本家の幸福は,以前に比べてほとんど増加しない.こうして,富者と貧者の間でより幸福が平等に分配される」と述べている.確かに,ほとんどの人間にとって,豪華な食事も,美しい衣装も,立派な邸宅も,実際に手に入れてみると,それらはたいした幸福の増進をもたらさないということに気づくのにそれほど時間は要さないのであろう.もっとも,資本家がさらなる富を獲得しようとして雇用が発生するというくだりは,すべての産業において機械化が進み単純労働者が不要となり,さらに貧富の差を広げてしまっているわが国の現状とはいささか異なるようである.
さて,高齢化が急速に進むわが国において,健康志向が非常な高まりをみせている.日本人の3大死因とされるがん,心臓病,脳卒中は,かつては高齢者特有の病だと受け取られていた.いわば老人病と,ある意味で運命的な捉え方をされてきたのであろう.栄養状態や衛生状態が改善され高齢化が進めば,これらの疾患の死亡率が高まるのは自明である.しかるに現在,これらは成人病を経て,生活習慣病とよばれるに至った.「不健全な生活習慣」を原因と位置づけようという意図が明確にうかがえる.
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