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Ⅰ.はじめに
視床の腹外側核群は,末梢からの感覚性入力,大脳基底核,小脳からの入力を中継し,大脳皮質に伝えるkey-relayであり,運動と感覚の統合を行っていると考えられている20).特に,腹吻側核nucleus ventralis oralis(Vo核),腹中間核nucleus ventralis intermediate(Vim核),腹尾側核nucleus ventralis caudalis(Vc核)は,パーキンソン病に代表される運動異常症や中枢性疼痛に対する機能的定位脳手術のターゲットとして重要であり20),歴史的には,1950年代の後半に解剖学者のHasslerが提唱する視床手術がパーキンソン病に対して行われたのが最初である.これは,Vo核に比較的大きな凝固巣を作成することでパーキンソン病の振戦と固縮が改善するというものであったが5),Hasslerの視床亜核分類による前吻側腹側核nucleus ventralis oralis anterior(Voa核)が淡蒼球内節からの入力を受け,大脳皮質のブロードマン8野に投射し筋トーヌスの異常に関わり,その後尾側の後吻側腹側核nucleus ventralis oralis posterior(Vop核)は小脳からの入力を受け4野に投射し,振戦などのhyperkinetic な病態に関与するという考えに基づいたものである.Albe-Fessardらの微小電極法による視床の脳深部電気活動記録の解析から,視床腹外側核群の機能分化が解明され1),Ohyeらは術中に得られた視床腹外側部の電気生理学的所見から Vim核の最外側部に振戦に特異的な神経細胞群が存在することを明らかにし,この部分に選択的にごく小さな凝固巣を作成する選択的視床腹中間核手術を1980年代に完成させた22,23).この手術は,本態性振戦などのパーキンソン病以外の振戦にも有効であり,ジストニア,アテトーゼ,バリスム,舞踏病などにも応用された21,25).その後,1990年代に入ってからはさらに非侵襲的な慢性植え込み電極による脳深部電気刺激(deep brain stimulation:DBS)が台頭し,ターゲットも視床のほか,淡蒼球や視床下核が選択されるようになったが2,13),多くの臨床的データの集積があり,明確な電気生理学的特性を持つVim核を中心とした視床腹外側核群をターゲットとした定位脳手術は運動異常症の外科的治療の基本であり,かつその重要性はますます増してくるように思われる.また,視床の腹外側核群が振戦の発現や維持に関してどのような役割を果たしているのかについては,十分に解明されていない3,12,26,28,31).
ここでは,ヒト視床腹外側核群の解剖と生理を機能的脳神経外科の見地から概説するとともに,代表的な運動異常症である振戦に対する定位的視床手術について,われわれの経験から得られた知見を中心に述べてみたい.
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