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はじめに
神経栄養因子(neurotrophic factor)はニューロンの生存を維持する作用を有する生体物質の総称である。しかしもとを正せば,その概念は発生生物学上の知見から生まれた。図1はHamburgerらによる発生段階におけるトリの腰髄運動ニューロンの数の変化を示したグラフである9)。孵卵開始後6日目に約2万個あった運動ニューロンが9日目には1万2千個に減少し,この間に約40%のニューロンが失われているのがわかる。これは正常な神経発生の過程で見られる現象であり,自然発生的運動ニューロン死(naturally occurring motor neuron death)と呼ばれる。運動ニューロン死が起こる時期はちょうど標的組織である肢芽(limb bud)の筋とシナプス結合を形成する時期にあたる。Hamburgerらはこのニューロン死が肢芽を取り去ると増強し,余分の肢芽を移植すると減弱することを明らかにした。これらの実験事実から発生過程のシナプス形成期には標的組織から分泌される何らかの因子―神経栄養因子―が運動ニューロンの生存に必要であり,シナプス形成に失敗し,栄養因子を取り込むことができなかったニューロンは死滅するというシナリオが導かれる。
Neurotrophic factors play an essential role in the survival and maintenance of motor neurons not only at developmental stages but also in adulthood. During the prenatal period when motor neurons make synaptic connection with muscle cells, target (muscle)-derived neurotrophic factor is indispensable for the survival of innervating motor neurons. In the mature nervous system, a variety of neurotrophic factors which have survival-promoting effects on motor neurons are produced in muscles, glia cells, Schwann cells, and neurons.
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