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現代医療では完治できない難治性疾患はまだまだ多い。悪性脳腫瘍もそのひとつである。現在,この悪性脳腫瘍の完治を目指し,遺伝子医療,再生医療,医用工学医療,ゲノム創薬医療等の先端医療開発が精力的に進められている。この中から,本稿ではヒトβ型インターフェロン(IFN-β)遺伝子包埋リポソームを用いた悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療を取り上げ,解説する。本遺伝子治療の最も大きな特徴は,純国産技術で開発したわが国初の遺伝子治療であることと,臨床研究の実施にあたり,使用する遺伝子治療製剤(IFN-β遺伝子包埋リポソーム製剤)を自らの施設で調製している点にある。また,最近では製剤をより安定化するための凍結乾燥化にも成功した。これまでに本製剤を使った遺伝子治療臨床研究を5人の患者の協力のもと実施し,うち2例で有効性が確認できた。また,安全性には大きな問題はなかった。
はじめに
20世紀後半に誕生したゲノムサイエンスは,疾患の病因を遺伝子レベルで解析することを可能にした。その結果,多くの疾患が遺伝子の異常により引き起こされていることがわかった。一方で,みつかった遺伝子異常を修復することができれば,疾患を完全に治癒することができるのではないかといった概念が誕生した。これが遺伝子治療である。
当初,遺伝子治療は,病気を引き起こす遺伝子(病因遺伝子)そのものを修復し,その機能を回復させることで病気を治そうとする治療法として考案されたが,特定の細胞に存在する病因遺伝子を確実にターゲッティングし,その病因遺伝子をまるごと修復するといった高度な遺伝子操作技術は,一部の先天性代謝異常症を除き,不可能であった。そこで,病因遺伝子をまるごと修復するのではなく,遺伝子をあたかも“くすり”のように用いる新しい治療概念が生まれてきた。現在展開されている遺伝子治療臨床研究のほとんどが,この考え方に基づいたものであり,本稿で解説するヒトβ型インターフェロン(IFN-β)遺伝子による脳腫瘍の遺伝子治療もそのひとつである(図1)。
In April 2000, we started clinical trial of interferon-β(IFN-β)gene therapy for the patients with malignant glioma. As a vector we used our original cationic liposomes, which are multilamellar typed liposomes. Treatment consists of reoperation, injection of liposomes containing human IFN-βgene on day 0, 14, 21, and 28, end of treatment evaluation on 3months later from the first day of liposome administration. In patients undergoing tumor resection, the surgical margin of the cavity was infiltrated with 1ml of liposomes containing human IFN-βgene at a concentration of 30μg DNA/ml, evenly distributed at multiple sites. From 2 to 4 injections, repeated procedure was stereotactically performed under local anesthesia. Safety and tolerability was assessed by physical examination, vital signs, laboratory evaluations, adverse events and concomitant medication usage. Transgene expression and antitumor activity were detected. Two patients showed a partial response(>50%tumor reduction)and others had stable disease at 3months after the first injection. The study suggests feasibility and safety of IFN-βgene therapy, which may become an important treatment option for patients with malignant glioma.
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