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先天性ミオトニア(myotonia congenita)は,古くから常染色体優性のThomsen病と,常染色体劣性のBecker病が知られていたが,近年の分子遺伝学の進歩によって,両者とも第7染色体長腕35に存在するCl- チャネル遺伝子の異常による,同じalleleによる病気であることが明らかにされた。現在まで50以上のmissense,nonsense変異と数カ所の欠失が明らかになっている。様々なmutationを使用した電気生理学的な研究によって,異なる変異によりCl- チャネルの機能が様々に変わることが実験的に明らかにされてきている。さらに最近では,Cl- チャネル遺伝子の変異により他のチャネル機能の変化も報告されており,今後のより詳細な分子細胞生物学的発症機構の解明が望まれる分野である。
I.はじめに
先天性ミオトニア(myotonia congenita)は,100年以上前に,本人もこの病気に罹患していたオランダの内科医であるThomsenにより,最初に報告された病気である。臨床的には,一般的には,筋萎縮,筋力の低下,筋肉痛はなく,幼少時から立ち上がりや歩きはじめがうまくいかないなど,筋収縮後の筋弛緩が遅れる症状で気付かれることが多い。このミオトニアは,筋硬直が起こっても筋の激しい痛みのないのが特徴であり,また寒冷に暴露されたり,血中のカリウムの変化による影響も受けない。今まで,遺伝学的には常染色体優性のThomsen病(dominant myotonia congenita:DMC)と常染色体劣性のBecker病(recessive myotonia congenita:RMC)とに分類されてきたが,両者とも電位依存性クロライドチャネル(Cl- チャネル)遺伝子(CLCN1)の異常であることが,近年明らかにされた。染色体上では,DMCおよびRMCの責任遺伝子であるCLCN1は,第7染色体長腕35に位置している。臨床症状として,RMC,DMCとも恒常的にミオトニアを呈するが,RMCのほうがDMCより一般的には臨床症状が強いのが特徴で,ときに過度の筋緊張により筋肉の肥大が認められることがある(図1A)。ミオトニアは,筋電図上では,数秒続く反復放電として記録される(図1B)。重症のBecker病では,その20~30%の罹患者に胸鎖乳突筋,前腕,手の筋肉に筋萎縮が認められるといわれている4)。
非定型的な先天性ミオトニアとしては,Nagamitsuら34)は,常染色体劣性の先天性ミオトニアの1家系で,近位筋の筋肥大,ミオトニアに加えて,加齢とともに,遠位筋の筋萎縮,筋力低下,関節の拘縮,血清CK高値を呈し,1塩基のinsertionとmissense mutationのcompound heterogygoteの家系を“dystrophic”variant of RMCとして報告している。また,一般的に先天性ミオトニアは筋肉痛を伴わないのが特徴とされているが,Wagnerら44)は,筋肉痛を伴い,ミオトニアがある時期とない時期(fluctuating myotonia)があり,寒冷,空腹,精神的ストレスで増悪する,特異な常染色体優性の先天性ミオトニア家系で,CLCN1遺伝子のG200Rのmissesense mutationをみつけ,その変異が特有なfluctuating myotoniaを誘発する原因と推察している。
一方,フィンランドのF413,A531,R894Xの遺伝子変異を持つ46人のRMCの患者では,筋肉痛はよくみられると報告されており35),筋肉痛の出現自体がある特定の遺伝子変異に特有なものではないと考えられる。また,最近Wangら45)によって,痛みを伴った先天性ミオトニアで,Naチャネルのdomain1/S6にmutationがある家系が報告され,Naチャネルの機能異常によっても同様の症状を呈すると思われる。
ミオトニアの発症機序に関しては,Bryantら5)によって遺伝性のヤギのミオトニアが,chloride conductance(GCl)の低下によるという報告によって初めて明らかにされ,その後Cl- チャネルの遺伝子異常が明らかにされた3)。この報告により,ミオトニア現象一般が,GClの低下によるとかなり長く広く信じられてきたが,1980年代にLehmann-Horn,Rudelら25, 26)によって,周期性四肢麻痺を伴うミオトニア,先天性パラミオトニアではGClに異常はなく,ナトリウムチャネル阻害剤であるtetrodotoxinで阻害される電位依存性Naチャネルの異常電流が存在するという報告がなされ,ミオトニアという現象は単に1つのチャネル異常によって起こるのではないことが明らかとなった。この事実から,その後,クローニングされたNa,Cl,Caチャネルと種々のミオトニアあるいは家族性周期性四肢麻痺との連鎖解析が行われた11, 12, 20)。その結果,先天性パラミオトニアおよび家族性高カリウム血性周期性四肢麻痺が,Naチャネル遺伝子の異常によること,さらに家族性低カリウム血性周期性四肢麻痺が,電位依存性Caチャネル遺伝子異常であることが明らかにされた7)。
Myotonia congenita(MC)is a nonprogressive, non dystrophic myotonic disorder caused by mutations of the gene encoding the chloride channel of skeletal muscle(CLCN1). The dominant(Thomsen disease)and recessive(Becker disease)forms are allelic disorder that are caused by different mutations within the CLCN1gene. More than 50mutations have been reported so far. The functional defects caused by these mutations include a deporlarizing shift in the voltage dependence of opening, an increase in cation permeability, and an inverted voltage-dependent gating of CLCN1 channels. Further understanding of genetic and physiological defects may lead to better diagnosis and treatment of patients with myotonia congenita.
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