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はじめに
生体の中で,神経細胞と筋細胞は,興奮性細胞として活動電位を発して様々の情報を伝達する特異な細胞であるが,その本態は,Na,K,Clなどのイオンの細胞膜を通した流出入による細胞膜内外の電位差の調節にある。
歴史的には,1791年カエルの骨格筋が電気刺激によって収縮することが発見され,1840年代には,神経のインパルスは電気現象であることが明らかにされ,1902年膜電位のカリウムイオン説,1952年には,HodgkinとHuxley14)のヤリイカによる活動電位の記録によって,活動電位はナトリウムイオンの透過性によって発生することが明らかにされた。一方,神経生理学的研究の技術的な研究手法の面では,1949年細胞内ガラス微小電極の発明,voltage clamp法の発明があり,神経生理の黄金時代を築いたが,その後1976年Sakmannら24)によるsingle ionを測定できるpatch clamp法の発明により,電気生理学的研究がさらにsingle channelレベルで飛躍的に進んだ。遺伝子解析に関しては,1980年代に,遺伝子工学によって京都大学の沼教授らのグループによるachetylcholine受容体遺伝子のクローニング25)を皮切りにion channnel(IC)の分子構造が次々に明らかにされた。一方,IC遺伝子異常によって起こる病気としては,1987年キイロショウジョウバエShaker geneのクローニングにより初めてK channel遺伝子の異常26)が明らかにされた。その後,1991年には,ヒトの悪性高熱症でryanodine受容体遺伝子の異常,家族性高カリウム血性周期性四肢麻痺でNa channel遺伝子の異常が明らかにされ,その後多くのIC異常の疾患が次々と明らかにされ,現在ion channelopathyという概念で呼ばれるようになってきた。さらに,その遺伝子異常の病態生理に関しては,カエルの卵母細胞などの発現系を使用した生理学的機能の解析あるいは疾患モデル動物による解析によって,ICを修飾する様々な機能異常が今日まで明らかにされてきている。本稿では,電位依存性ICとしてK,Na,Ca,Cl ion遺伝子の異常,リガンド作用によって開くICとして,GABA,glycine,glutamate,ACh受容体遺伝子の異常,Ca induced release(CICR)の重要な分子であるryanodine受容体遺伝子の異常によって起こるIC病(チャネル病:channelopathy)に関して臨床的・分子細胞生物学的機序の観点から概説する。
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