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脳の機能は,神経細胞の電気的活動がその最も素子的要素である。そして,その電気的情報が神経終末で化学的情報に変わり,シナプス間隙を介して次の神経細胞に再び電気情報として伝わることが基本である。すなわち,神経回路網の中での細胞間情報伝達によって脳機能は成り立っている。してみると,1個の神経細胞の電気的活動を可能ならしめている分子が,脳機能の最も根源的・素子的担い手であるということになり,それこそがイオンチャネルである。
1952年にHodgkinとHuxleyが,イカの神経線維における活動電位がナトリウムイオンに対する透過性によって発生するというモデルを提出し,それまでの神経生理学的な研究の上に金字塔となったのを思い出す。その後もなお,1970年代後半には単一イオンチャネルの解析を可能にしたパッチ・クランプ法の開発もあった。しかしながら,神経細胞膜の表面にポコポコと散らばるイオンチャネルというイメージはできたが,個々のイオンチャネル分子が実際にイソギンチャクのような,あるいはチューリップのような形をしていることがわかったのは,1980年代に本格化した遺伝子工学により,それらの分子構造が明らかになったからであった。1983年のわが国の沼教授のグループによるアセチルコリン受容体遺伝子のクローニングに続いて,翌年のナトリウムイオンチャネル遺伝子クローニングの成功は,大きな学問的な潮流の始まりであった。その後は,カリウム,カルシウムおよびクロライドなどのイオンチャネル遺伝子が続々とクローニングされ,カエル卵に発現させたそれぞれのイオンチャネルの生理学的機能の解析とともに,イオンチャネルの実態を理解する上で大きな力となった。
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