特集 診断に役立つ! 教育で使える! フィジカル・エポニム!—身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考
—Babinski徴候—観察の奥にあるもの—たった28行の記念碑的論文
井口 正寛
1
1福島県立医科大学医学部 脳神経内科学
キーワード:
Babinski徴候
,
Babinski反射
,
Joseph Babinski
,
錐体路障害
,
足底反応
Keyword:
Babinski徴候
,
Babinski反射
,
Joseph Babinski
,
錐体路障害
,
足底反応
pp.1318-1324
発行日 2020年11月15日
Published Date 2020/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429202863
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Babinski徴候は、足底のやや外側を後ろから前にこすると、母趾が背屈する(原著では足趾が伸展する)徴候である(図11))。「錐体路障害」の存在を示唆する、最も名の知られた神経徴候と言っても過言ではない。フランスの神経学者Joseph Babinski(1857〜1932)が、後述する1896年のたった28行の論文2)で報告したことに端を発する。
この徴候は、医学書のみならず、芸術作品にも多く登場する。「シュール」の語源でもあるシュルレアリスムの創始者André Breton(1896〜1966)は、若き日にBabinskiのもとで医学の勉強をしていた時期があり3)、代表的な著作『シュルレアリスム宣言』(1924)4)には、「私はかつて、足の裏の皮膚の反射作用の発見者が仕事をしているところを見た」という形でBabinski徴候が登場する。また、谷崎潤一郎(1886〜1965)の小説『鍵』(1956)5)にも、Babinski徴候の描写が複数回みられる。新生児では正常でもBabinski徴候が陽性となるが、Babinski徴候が報告される400年以上前の中世の絵画にはすでに、足底の刺激やBabinski徴候の変法のような刺激で母趾が背屈していることが数多く描かれている6,7)。新生児が描かれた絵画にこの徴候を探すことは、筆者の美術館巡りでの楽しみの1つである。
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