文学
あるひとつの記念碑—北杜夫の文学
平山 城児
1
1立教大学文学部
pp.70-71
発行日 1964年8月1日
Published Date 1964/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912339
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「宝島」を書いたR.L.スティブンソンが,短かいエッセイのなかでこんなことをいっている。“思い出というものは,使っても使ってもすりへらない,妖精の贈物のようなものである。くりかえし,くりかえし同じ話を語っても,その過去の輝やかしい,ささやかな光景は,心の眼のなかでキラリと光っており,それをつずる糸は決して切れることもなく,その色は決して色あせぬものである。”
追懐のなかでは,過去は現在から遠くはなれれば離れるほど美化されて行くのは,だれしも経験することである。北杜夫の1,500枚におよぶ大作「楡家の人びと」を読みおわってから,私は一見なんの関係もないように思われる,さっきのスティブンソンのコトバを思いうかべたものだった。
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