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緒論
今日一般に所謂錐體路障碍の症候群として知られている主なものは,1)隨意運動の麻痺及び筋緊張亢進即ち強直。2)腱反射亢進。3)Babinski, Rossolimo其他の病的反射の出現。4)皮フ反射の減弱乃至消失。5)筋萎縮及び電氣變性反應の缺如等であつて,弛緩性麻痺,腱反射の消失は主として,中樞神經系のショック,或は脊髓前角細胞又は末梢神經損傷の症状とされている。而してこの病的反射に就ては,Babinskiが1896年現在Babinski反射と呼ばれている趾現象を報告して以來,同じく所謂錐體路障碍の徴として,多數の異常反射が報告された。即ち母趾背屈を起すものとして拮抗筋反射(Schäfer, 1899)・下腱現象(Oppenheim,1902)・奇異屈曲反射(Gordon, 1904)・腓腹筋現象(Trömner, 1911)・Chaddock反射(1911)等々。更に又抵抗反射(Lichtmann,1941)・腱伸張反射(Gonda 1942)共他があるが,これ等は何れもバ反射の變法と考うべきもので,それ等の著者の新しい何か異つた少くともRabin-skiの方法よりもよい,という樣な報告にも拘らず,一般的にはバ反射ほど規則的には現われないのが常である。他方Babinski (1903)は趾の開扇現象fanning-signを母趾背屈と同一現象として報告し,又Mendel (1904)及びRech-terew (1904)は足背反射を,Rossolimo (1908)は趾反射を報告した。上肢に於ける病的反射も種々あるが,その出現は不確實なもの多く,Hoffmannの反射が現在代表的のものとされ,Fultonもその論文中に錐體外領損傷時の反射として記載している。又錐體外路性の症候と見られているPuUSeppの徴候(1923)は同側の前頭葉或はその投射と關係があると考えられているが,學者によつては開扇現象の一部としているものもあり,次に述べるFultonの所説にて開扇現象が錐體外路障碍の徴とされているのと比べて興味深い。
Fulton (1935)はUpper Moter NcuronLesionなる論文に,從來の古典醫學に一大變更を要すべき樣な所説を發表した。即ち類人猿に於ける實驗から,中樞運動症候群と運動(錐體)領症候群と前運動(錐體外)領症候群とに分析し,運動領の單獨損傷では,反對側に弛緩性麻癖が現われ,腱反射は減弱乃至消失して筋萎縮が見られる。この時期の後,腱反射は輕度に亢進して來,Babinski (母趾背屈),Chad—dockの反射が現われる。他方前運動領の單獨傷害では,反對側の強直性麻痺が現われ,開扇現象,Rossolimo, Mendel-Bechterew, Hoff—mann,強制把握等が出現し,又脈管運動障碍がみられる。而して運動及び前運動領合併症候群では最初は錐體性効果で弛緩性麻痺と無反射で,後に錐體外性効果が現われ,強壷性麻痺・腱反射亢進・脈管運動障碍・病的反射も兩者のものが同時に出現し,その症状はより著明で且つ持續性となる。而して臨床的にはこの合併症候群が多く觀察せられ,それが今まで所謂錐體路症候群と考えられていたのであると。
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