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概念の変貌
わずか10数年前まで,肝転移は末期がんの象徴であり,治療の対象とさえされていなかった.がん末期は通常予後が6か月以内の状況をさすが,しかし今や,肝転移=予後6か月以内=末期という構図は完全に崩れている.原因のひとつは,肝転移に対する画像診断能の向上にあるかもしれない.触診による肝腫大や黄疸の出現を契機に肝転移を診断していた時代に比べ,USやCTが簡便に行われ遥に小さな段階で肝転移が発見されるようになり,この発見の時期が遡った分だけ見掛け上の予後も延長した.しかし,これだけでは,肝転移の概念はこれ程まで大きく変化しなかったであろう.多少の時間の差はあっても,肝転移が“死への片道切符”であることに変わりないからである.やはり,この肝転移に対する認識の決定的な変化は,治療の進歩によるものであろう.特に肝転移が切除できるようになったことは画期的であり,また肝動注化学療法の普及も多少影響しているかもしれない.いずれにせよ,これら肝転移に対する局所療法が進歩,普及し,治療法としての安定性,信頼性を増したことが,肝転移の概念を“末期がんの象徴”から,“制御可能,時には治癒可能な病変”へと変化させたと言える.もちろん全身化学療法も進歩しているが,こと消化器がんについて言えば,その効果は限られており肝転移の概念を変化させるほどの強烈なインパクトはなく,少なくとも現時点までの概念の変化は切除を筆頭とする局所療法の進歩によりもたらされたものと総括される.ただし,次にくる変革が,いよいよ局所療法ではなく,部位にかかわらず効果を上げうる全身療法である可能性は極めて高い.この時には肝転移という特殊な扱い自体が不要になるのかもしれない.治療の進歩により肝転移の概念は大きく変貌したが,さらに大きく治療の流れを俯瞰した場合,現在の局所療法優位の状況もまた,次の変革までの過渡的なものとして捉えるべきであろう.
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