書評
—小林聡幸 著—うつ病ダイバーシティ
松本 卓也
1
1京都大学大学院人間・環境学研究科/精神病理学
pp.227
発行日 2024年2月15日
Published Date 2024/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405207200
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精神病理学者の本というと,たとえば木村敏の『分裂病の現象学』や宮本忠雄の『妄想研究とその周辺』のように,弘文堂から上製・函入りで刊行された格調高い書物をイメージする人も多いだろう。『分裂病の現象学』は筑摩書房で文庫化もされたが,やはりあの「函から本を取り出す」という行為が重要であって,これから自分は精神病理学の本を紐解くのだぞ,と襟を正す手筈を踏むかどうかは読書体験にも少なからぬ影響を与える。たとえ函入りでなかったとしても,ソフトカバー(並製)ではいけない。硬い表紙のハードカバー(上製)でなければ「感じ」がでないのである。
本書は,著者が1996〜2023年にかけて執筆したうつ病論をまとめた論文集である。同じ著者による統合失調症論集である『行為と幻覚』(金原出版)が刊行されたのは2011年のことであるから,ちょうどそれから干支が一回りしたことになる。『行為と幻覚』もソフトカバーであったが,本書『うつ病ダイバーシティ』はそれに加えて,収録されている精神病理学の論文をかなりユーモラスな筆致でリメイクしており,読みながら思わず何度も笑ってしまうようなつくりになっている。精神病理学の本で大笑いしたのは初めて,という体験をする読者も少なくないだろう。ちなみに,著者はもう1つの専門である音楽家の病跡学の本については2冊ともハードカバーで出しているけれども,やはり本格的な病跡学はまだまだハードカバーじゃないと「感じ」が出ないのかもしれない。
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