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あとがき
神田 隆
pp.348
発行日 2015年3月1日
Published Date 2015/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200148
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ある疾患の発見者,あるいは疾患概念の確立者として自分の名前が病気に冠されること,医学者,臨床医として大変名誉なことであろうと思います。私の手元に1998年に診断と治療社から刊行された『症候群事典』(『診断と治療』第86巻増刊号)なる分厚い本があります。他の臨床領域と比べて脳・神経・筋分野の症候群数は桁違いに多く,実に109もの人の名前を冠した症候群がリストアップされています。『神経学用語集』はどこを開いても,人名のついた徴候,症候群が書かれていない頁はありません。また,バビンスキー徴候の変法として何十種類もの徴候・反射が記載されており,脳幹の血管障害にはあらゆる部位に人の名前のついた症候群が存在します。
「こういった歴史的トリヴィアを楽しむのもまた,神経学の醍醐味の1つである」ということを私は必ずしも否定するものではありませんし,神経学を築いた諸先輩の臨床観察や剖検所見との照合から得られた歴史がこれらの用語に息づいていることも間違いありません。しかし,症候群や徴候名の丸覚えに伴う苦痛が,研修医,医学生の神経学忌避を招いている元凶の1つではないかとかねてから私は考えておりました。このような憎まれ口を私は自分が書いた教科書に記載し,脳幹症候群は極力載せない,病的反射はバビンスキーとチャドックだけ,という方針を貫いて,ある人からは全面的な賛同を,一部の先輩からは否定的なコメントをいただきました。読者の皆様はどのようにお考えになりますでしょうか。
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