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序
筋疾患の基礎的研究が大きく転換したのは1987年のジストロフィンの発見であった1)。ジストロフィンの発見の意義は遺伝性筋疾患の中で最も頻度の高いDuchenne型筋ジストロフィーの原因遺伝子の解明にはとどまらなかった。なぜなら,ジストロフィンは細胞膜の裏打ち構造であって,力を発生し運動によって形を変える骨格筋の細胞においては,形質膜をその細胞骨格に固定する役割をはたし,その欠如が細胞膜の脆弱化を引き起こして筋細胞を壊死に至らしめるという,筋ジストロフィーの発症機転の解明であったからである。また,従来から形態学的な根拠により主張されていた「膜説」が正しいことを証明することにもなった。これをきっかけに,ジストロフィンが結合するジストログリカンやサルコグリカンなどの筋形質膜の糖蛋白複合体,さらに,細胞外基質を構成するラミニンA/Cなどとの関連が明らかになった。これらの蛋白の欠損や異常によっても骨格筋の壊死がもたらされ,従来は遺伝形式や臨床症状から異なる型と言われていた筋ジストロフィーも,サルコグリカン異常症2-5),ラミニン異常症6)など,原因遺伝子の観点から整理されることとなった。
1990年代には頻度の高い遺伝性ミオパチーの原因となる遺伝子/DNAの変異が次々に解明され,疾患の頻度を考慮すると,2000年には既にほとんどの患者にとって自分の病気の原因の解明は解決済みの課題と言っても過言ではないという状態になっていた。例えば,1992年に筋強直性ジストロフィー7,8)と顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー9),1994年にEmery-Dreifuss型筋ジストロフィー10),1998年に福山型先天性筋ジストロフィー11),三好型遠位型筋ジストロフィー12),眼咽頭型筋ジストロフィー13)の原因となる遺伝子/DNAの変異が同定されている。
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