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医学,医療に携わる私共には多くの喜びが与えられている。的確な診断と治療により患者さんを救えた喜びなどがその最たるものであろうが,「新たな疾患概念」を確立したり,経験することも大きな喜びである。私は今まで身近にて2つの疾患概念の確立や変遷を経験してきた。その1つは1980年代後半に当時の鹿児島大学の納教授のグループによるHAM(HTLV-I associated myelopathy)の発見である。欧米の神経学の教科書にも載っていないspastic spinal paralysisと診断をつけ病因は変性疾患と考えて何ひとつ疑わなかった疾患が実はHTLV-Iの感染症であった訳である。この新たな疾患概念の発見により疾患の臨床病像,検査異常,病因,疾患論が実に明確にされ,なによりも本疾患の治療法が整理され予防も可能になった感動は忘れられない。
もう1つは本誌の特集であるNMO(neuromyelitis optica, Devic病)である。本特集では「NMOの疾患概念―OSMSからの変遷と確立」を中島一郎先生に,「NMOの病態機序をめぐる新たな展開」を三須建郎先生に,「NMOの頭部MRIからみた臨床像の特徴」を清水優子先生に,「NMOの抗AQP4抗体からみた治療法の選択」を越智博文先生に,「NMO spectrum disordersと膠原病/悪性腫瘍/感染症」を田中惠子先生に,「AQP4免疫染色からみたNMOと多発性硬化症―神経病理学的再考」を吉田眞理先生にまとめていただいた。この特集のおおまかな論旨は,「多発性硬化症(MS)類似の臨床像をとるNMOは長い間MSとの異同が論議されていたが,NMOに特異的にみられるNMO IgG(アクアポリン4抗体,AQP4抗体)の発見とそれに続く病変部でのAQP4の消失の2つの大きな発見から,NMOは脱随疾患であるMSとは異なる疾患概念,すなわちアストロサイト傷害の疾患である」にまとめられる。
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