書評
「エスクロール基本神経病理学」―F. Gray, U. De Girolami, J. Poirier●編著,村山繁雄●監訳
岩坪 威
1
1東京大学大学院医学系研究科神経病理学
pp.997
発行日 2010年9月1日
Published Date 2010/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416100757
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本書の届いた日,書架からEscourolle et Poirier著,1977年版“Manuel élémentaire de neuropathologie”(Masson社)を取り出してみた。緑色のシンプルな装丁,200頁ほどの簡素な書物である。Rubinstein教授による英訳版が普及し,簡潔にして明晰かつ健全な記載と,豊富に収載された図版の秀逸から,評者らが神経内科学,神経病理学の手ほどきを受けた1980年代以来,神経病理学入門書のバイブルと目された書物であった。今回村山繁雄先生監訳により最新版が邦訳された本書の,初期版に相当する。
しかし過去四半世紀の間に,神経病理学は,免疫組織化学の普及による組織病変の物質的理解の進捗,分子遺伝学や臨床神経学の長足の進歩に基づく疾患・病態概念の変遷などを経て,大きく変貌した。基本となる概念は不変であるものの,教科書のページ数を数倍増させるに足る莫大な知見が集積され,その全貌を初学者が捉えることは年々困難となりつつあった。特に本邦で優れた教科書が長年出版されていないことは,われわれ神経病理学に携わる者の悩みであった。
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