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悪性腫瘍が日本人の死因の第1位になってから久しい.これまで循環器内科医は外科医や腫瘍専門医から様々な依頼を受けることは多かったが,循環器内科医から積極的に腫瘍専門医にアプローチすることは少なかったと思う.悪性腫瘍の心臓への転移あるいは直接浸潤のみならず,心囊液貯留の相談,化学療法後や放射線治療後の心機能障害,貧血に伴う心不全などは日常的に遭遇する.それ以外にも腫瘍が凝固能を亢進させて肺塞栓や脳塞栓を発症させるトルーソー症候群などは,腫瘍の大きさにかかわらず発症するので,循環器内科医は常に念頭に置かなければならない疾患であろう.また,近年,癌に対する様々な分子標的治療法が登場し,少なからず心臓に影響を与えることが知られている.これまでの循環器内科医の知識だけでは到底これらの問題に対処し得ないことは間違いない.欧米ではこれらの問題に対応するため,cardio-oncologyあるいはonco-cardiologyという概念が提唱され,既に臨床の重要な一部になっている.日本においてもこの領域は最近注目され,取り上げられるようになった.しかし,癌の専門家は循環器領域のことを知らないことが多く,循環器内科の専門家は癌の領域のことを知らないため,なかなか専門家は育ちにくい状況がある.がんセンターと呼ばれる施設には循環器内科の専門医がおらず,循環器病センターには癌の患者がいないことがこれに拍車を掛けている.今後はこれを解消するためには癌治療と循環器治療がともに充実し,スタッフに余裕のある大学病院や基幹病院がcardio-oncologyの専門家を育てていくしかないであろう.また,専門家の育成とともに,一般循環器内科医にも知識の普及を行っていくことが求められる.これらは学会が主導すべきであり,日本循環器学会,日本心臓病学会等の責任はますます重くなると考えている.
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