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20年前の循環器内科で診る成人の先天性心疾患というと,小児期に見逃された心房中隔欠損症,手術不要といわれた小シャント量の心室中隔欠損症,雑音が比較的小さい動脈管欠損症,冠動脈瘻などが中心であった.循環器内科医の役目は心カテで正確なシャント量を決定し,アイゼンメンジャー化しないように手術時期を設定することが中心であった.ところが,この20年間で様相が一変してきた.小児循環器の診療レベルの向上と小児心臓外科の技術革新により,複雑心奇形を含めた先天性心疾患症例が手術を経て長期生存し,多くの症例が成人期に達するようになった.その数はいまや50万人にも達するとのことである.複雑心奇形の術後は解剖学的構築が通常の心臓と異なるうえ,種々の術式がなされるため,心雑音の評価さえ容易ではない.これらの症例が突然循環器内科を受診し,心不全や不整脈を訴え,あるいは妊娠の可否の相談,妊娠中および出産後の管理,肺高血圧症の管理も同時に行うようになった.これまでの循環器内科ではこうした疾患は想定していなかったため,新たに教育をする必要があるとともに,診療体系を大きくシフトする必要に迫られている.成人先天性心疾患の専門外来を設立したり,小児循環器医,小児心臓外科医と共同のカンファレンスを行い,治療方針を決定する必要が出てくるであろう.循環器医が診療する疾患は数カ月,数年では変化がみられないが,リウマチ性心臓弁膜症の新規症例が激減している現況からみても,十年二十年というスパンでみると大きく様変わりをしている.大学病院で教鞭と診療に携わる身としては,時代の流れと要求に即応した教育・診療・研究の体制を構築することが求められていると痛感する毎日である.
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