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「先生,ぼけないためにはどうしたらいいのですか?」60歳を超える頃になると急に記憶力が衰えるせいか,認知症が心配で検査を希望してくる患者さんは多い。以前は高名な先生の受け売りで,「オーケストラの指揮者にぼけている人はいません。頭を使って楽譜を記憶し,体全体を使って指揮しているからです。だから,頭だけでなく,体全体も使って運動してください」と答えていた。しかし,これができる高齢者はまずいない。そこで,最近ではこう答えている。まず,「お芝居や映画をみる,読書をする,音楽を聴く,歌う,友人とおしゃべりをする,おいしいものを食べる,できそうなものから始めてください」と。つまり,頭のトレーニングは,「五感」を1つでもいいから刺激することから始める。体のトレーニンングにはこの一言,「できるだけ外出をしてください。外出の時はなるべくおしゃれをして出かけてください」。以前米国に留学していた折,かの地の高齢者,特に女性が,赤やピンクの洋服を上手に着こなし,積極的に社交の場に出ていたことに驚かされた。その時,日本の高齢者もこうでなくてはいけないと直感した。それ以来,機会があれば高齢の女性におしゃれを勧めている。いつか,池袋あたりでは,おしゃれな服装でショッピングや食事をしている高齢者が普通にみうけられる日が来ることを願って。
さて,今月号の特集は「脊椎・脊髄外科の最新の進歩」である。脊椎・脊髄外科の分野でも,専門医以外は治療を避ける傾向にあるが,神経を扱う医師としては,最新の知識だけは共通のものとして習得していきたいと読みながら感じた。また,総説では,悪性脳腫瘍の放射線治療における高気圧酸素療法の応用の可能性について興味深く読ませていただいた。Zürich大学脳神経外科主任教授を定年退官された米川泰弘先生には,「Zürich大学―Zürich工科大学のNeuroscienceの研究の推移―われわれの近年の業績とともに」という題で,特別に原稿を寄せていただいた。その中に,前脈絡叢動脈の閉塞の症状(=Monakow症候群)で有名なvon Monakow教授が設立したHirnforschungsinstitutがこれまでスイスの神経科学の基礎研究で中心的な役割を果たしてきたこと,また,近年では分子生物学の発達とともに,研究機関同志の横のつながりが重要となっていることなどが書かれている。米川先生の研究もこの流れの中で,Zürich大学およびSwiss連邦工科大学との研究連携により行われたとのことである。わが国もこのような趨勢と無関係でなく,基礎と臨床の融合,研究機関同志の連携がさまざまなかたちで進行しているようである。最後に,「このヒトに聞く」では,今回,「iPS細胞の可能性」というテーマで,岡野栄之先生,山中伸弥先生に,これまでの研究の道のり,iPS細胞実現のインパクト,学際的なコラボレーションを含めた今後の研究の方向性などについて伺っている。楽な気持ちでご一読を!
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