- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
先日,妊婦が急に腹痛を訴え救急車を呼んだが,救急隊が病院に連絡してもどこにも受け入れてもらえず,結局最後に受け入れてもらえた病院に収容された後死産した,というニュースが話題を呼んだ。この問題を受けて政府や自治体は,救急医療体制の見直しを始めた。しかしこの問題の根は深く,根本には,過剰勤務や医療訴訟の増加による産科医の不足がある。私の所属する脳神経外科も似たような状況にある。講座の定員は私を含め8名である。この人数で毎日午前午後の外来,平均すると1日1件の手術,学生の臨床実習(BSL)などを行い,また,夜間の当直もこなしている。手術も緊急手術の割合が多い。病院の方針として“救急患者は断らない”のを原則としているため,当直に当たると,その勤務は過酷である。しかし報酬は低く,時間給でみればコンビニのパート従業員の時間給に及ばない。医師といっても勤務医の収入は低く,そのため,別の病院に当直のアルバイトに行かなければならない。アルバイト先でも過酷な勤務を続けなければならず,いつまでたっても体を休める暇がない。また,医療過誤に対するトラブルや訴訟も増えている。医療過誤でなくとも,結果が悪ければ患者や家族から責められる。精一杯努力した身には,これは相当に過酷でこたえる。そんなわけで,脳神経外科医になろうとする若い医師が急激に減少している。こういった傾向は,外科系で共通であり,緊急に対応が必要な社会問題である。
さて,今月号の特集は「手根管症候群」である。この疾患は,比較的頻度が高く,欧米では一般市民の認知度も高いという。しかし,日本では頻度のわりには神経内科医や脳神経外科医の間で熟知されているとは言いがたい疾患である。本号ではその臨床的な特徴,神経伝導速度検査などを用いた診断法,最新の治療などが詳述されている。是非この機会に「手根管症候群」に関する知識を整理し,日常の臨床に役立てていただければと思う。総説は「内因性精神病とDARPP-32」であり,DARPP-32が統合失調症や双極性障害の病態に深く関与する可能性があることを教えられた。また,Neurological CPCや症例報告の「淡蒼球症候群を遺した急性高山病の1例」など,すべての内容を興味深く読ませていただいた。
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.