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Sarah T. PendleburyとPeter M. Rothwell夫妻,それに臨床疫学者Matthew F. Gilesの3人による『TIAと脳卒中』の日本語版が,このたび東京医科歯科大学神経内科グループ(水澤英洋教授監訳)によって出版された。著者の一人であるRothwell教授は,さまざまなメタ解析で有名なエディンバラのCharles Warlow教授の下で研究を続け,その後オックスフォードに移ってOxford Vascular Study(OXVASC)を立ち上げた。その後の活躍は目覚ましく,極めて多数の脳卒中の臨床および臨床疫学に関する研究成果を報告している。中でも最近注目されているのが,「TIA(一過性脳虚血発作)を早期に治療することによって,3カ月後の転帰が著しく好転する」というOXVASCの臨床成績である。TIAが脳梗塞の警告症状であることはかなり以前(1950年代)から言われてきたにもかかわらず,一般臨床家の間ではあまり重要視されてこなかった。本書の表題にTIAという言葉を付けていることは,この点を意識しての命名であろう。
TIAと脳梗塞は一連の病態であるので,その定義あるいは診断基準を定めることは極めて難しい。最初に米国で定められた定義は「24時間以内に症状が消失し,脳に器質的病変を残さないもの」とされているが,最近の画像診断の発達によって症状持続時間と画像上の変化による定義付けは困難との考えから,米国心臓協会(AHA)/脳卒中協会(ASA)では「持続が短時間で画像所見を残さない」というあいまいなものとなっている。しかし,本書では最も古典的な「24時間」という定義を採択しているため,われわれにとっては親しみやすい。ちなみに厚労科研による研究班(班長:国立循環器病研究センター峰松一夫副院長)でも,現在のところ24時間という定義を用いることを提言している。
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