- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
今月の特集は,進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)である。PMLは,ポリオーマウイルスに属するJCウイルス(JCV)が初感染後に脳・脊髄など中枢神経系に長期間にわたって潜伏しており,細胞性免疫の低下などにより再活性化されて生じるいわゆる遅発性ウイルス感染症である。主にオリゴデンドログリアでウイルスの増殖が生じ,脱髄をきたす。AIDSの出現前は極めて稀な疾患と考えられていたが,HIV感染により免疫系が障害されると高頻度に発症し,大きな注目を集めている。残念ながら,一度発症するとその名のごとく進行性に増悪し,平均3カ月で死に至るという極めて予後不良の疾患である。しかし,近年JCVのゲノムや構成蛋白が研究され,発症機序が少しずつ解明されつつある。また,AIDSに伴うPMLの場合,強力なhighly active antiretroviral therapy(HAART)の導入により,長期生存例や症候が改善する例が知られるようになってきた。まさに,PMLも治療可能な時代を迎えつつあるといえる。
実は,厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業,プリオン病と遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班では,PMLを研究対象としており,初めての全国調査や診療ガイドラインを作成してきた。また,2006年10月に第10回日本神経感染症学会が行われた際には,PMLをシンポジウムとして取り上げたところ大きな反響を呼んだ。本特集はそのシンポジウムでのご発表をもとに作成されている。すなわち,基礎研究としてJCVの感染・増殖に関わる基礎的な知見,PMLにおけるJCVのゲノム構造の変化,PMLの神経病理所見,そしてPMLのわが国における疫学的実態を含む臨床所見である。稀な疾患とはいえ,PMLに罹患し悩む間もなく死亡している患者さんがいることを忘れてはならない。発症を予防し,進行を遅らせ,症候を改善させ,本症を治癒せしめることに少しでも近づくよう,まさにPMLが治る時代へ向けて,われわれ医師,研究者は努力しなければならない。そのために本特集が少しでも役立てば望外の喜びである。
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.