特集 診療現場での倫理 Case Study
【Case Study】
投薬すると日常生活自立度(ADL)が低下してしまう認知症高齢者のケース
平川 仁尚
1
1名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター
pp.684-685
発行日 2009年9月15日
Published Date 2009/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101765
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Case
患者は77歳,女性,無職である.長男夫婦との3人暮らしで,日常生活は自立であった.2001年頃に脳幹梗塞を発症したが,目立った後遺症は残さなかった.
2003年頃から徐々に物忘れ症状と抑うつ症状がみられるようになり,うつ症状に対してフルボキサミン50mg/日を開始した.この時の長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は12点(30点満点)であった.アルツハイマー型認知症と診断した.2006年頃から,夜間を中心とした不穏・興奮状態がみられるようになり,「息子に風呂場を覗かれた」などとたびたび被害妄想もみられるようになった.そこで,フルボキサミンに加えて塩酸チアブリド25mg/日とエチゾラム1mg/日を追加した.
2007年5月頃から,不穏に加えて不安から夜間不眠がみられるようになり,ほぼ毎日就寝時間に頻回に家族を起こすようになった.怒りっぽさが目立つようになり,近所や親しい友人に対してもさしてもない理由で暴言を吐くなど人間関係も悪化していった.リスペリドン1mg/日を投与開始したが,直後に全身倦怠感を訴えたため中止した.不眠に対しては,ブロチゾラム0.25mg/日を投与したが無効であり,フルニトラゼパム1mg/日に変更して若干の効果がみられた.
2007年7月頃から,精神科コンサルテーションのうえ,リスペリドンを再開し,徐々に増量,最終的にはリスペリドン4mg/日のほぼ投与可能な範囲で最大量にまで達した.それにより,不穏症状や不眠症状は大幅に軽減したものの,逆に日中の眠気が強くなり日常生活機能レベルの低下をきたした.褥創や尿失禁がみられるようになった.
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