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はじめに
脳卒中片麻痺患者の理学療法を行ううえで,歩行の再獲得は主要な目標である.しかし,その歩行の再獲得が困難である症例もおり,Davies 5)は,このように歩行の獲得が困難な症例に共通してみられる症状として,「Pusher症候群」を挙げている.この報告によると「Pusher症候群」は非麻痺側で麻痺側のほうに強く押して倒れてしまい,また,他動的に姿勢を矯正しようとしても,更に強く押し返そうとしてしまうといった状態で,全ての姿勢で起こり得るとしている.実際の臨床場面では,このような症例は通常の理学療法が進めにくく,歩行など移動能力を中心にADLの自立が著しく阻害されるという印象を持つ.
これまで我々は,「Pusher症候群」のなかでも基本動作,すなわち座位,立位,歩行にみられる押す現象を「Pusher現象」と呼び,この現象の有無によって,ADLの自立度が大きく影響を受けることを報告してきた1,4).他方,嶋田ら3)は,Pusher症候群の経時的な変化について,長期的にみるとADL自立が困難であった症例と,Pusher症候群が消失し最終的にADLは自立に至る症例について報告している.また,Pedersenら6)は,Pusher症候群を認める症例は,示さない症例より長い時間を要してADLに改善がみられるものの,最終的には自立度は違わないと報告している.
このようにPusher症候群といっても経過が様々であり,一定の見解が得られていないのが実情である.また,Pusher症候群の重症度による違いや,麻痺の影響を検討したものも少ない.そこで,今回は麻痺の程度を考慮したうえでPusher現象の重症度や経過の特徴をみていくことも重要と考え,年齢,麻痺の重症度および麻痺側を合致させた対照群を設け,Pusher現象の有無によるADL自立度の違いを確認した.更に,Pusher現象を示す症例で,Pusher現象の重症度や,経時的変化のなかで最終的にPusher現象が消失する症例と残存する症例,また,残存したなかでも軽減した症例と不変であった症例とのADL自立度の比較を行った.
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