シネマ解題 映画は楽しい考える糧[4]
「楢山節考」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院医学薬学研究部生命倫理学分野
pp.879
発行日 2007年10月15日
Published Date 2007/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101243
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人間の誕生から死を赤裸々に描き出す傑作
雪深い信州の山村で繰り広げられる姨捨山―楢山参りを中心に展開する人間ドラマを描いた作品です.今は昔,山深い寒村では70歳の冬を迎えた村人は子どもに連れられ楢山に行き,そこで死を迎えなくてはならない決まりになっていました.食糧の生産能力が低く,雪で閉ざされた小さな共同体の掟です.
主人公の母親も70歳の冬を迎え,残された者たちのためにさまざまな準備をして山に入ろうとしていました.彼女は躊躇する息子に「決まりは決まりだ.情けばかりではやっていけない」ときっぱりと諭します.今は45歳の息子も25年後には,自分が息子に背負われて楢山参りをする運命が待っているのです.姨捨は次世代の存続のために社会が生み出した方策でした.母親が楢山の神のもと,降り積もる雪の中「仏」と化していく時,主人公の家庭には若い新メンバーが加わり,母親の衣服は再利用され,世界は何事もなかったかのように過ぎていくのです.
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