新刊紹介
—深沢七郎 著—「楢山節考」/—原田康子 著—「挽歌」
松本 一郎
pp.37-38
発行日 1957年4月10日
Published Date 1957/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201384
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この本には,「楢山節考」「東北の神武たち」「揺れる家」の三作がのつている。昨年11月に,中央公論新人賞の第1回当選作として,「楢山節考」がとりあげられて以来の,これまでに発表された深沢七郎の全作品が,本に集められたという恰好.
どれも,奇妙な小説である.大ゲサにいえば,明治いらいの,近代日本の多くの文学者たちが追求してきた小説概念を,まるで無視して,無鉄砲な作品ばかり.第一,文章がひとを喰つている.センテンスのしめくくりを,「……であつた」と書くと,一頁くらい,「……であつた.……であつた」がつづく,そして,「……なのである」になつたかとみると,途端にまた,「……なのである,……なのである」とつづく.これは,あの天才的な精薄児,山下清画伯のスタイルと同じものなのだ.が,実はこうした幼稚きわまる,小学生のツヅリカタにも劣る文体が,深沢七郎の作品の世界を,音楽的なもの,幻想的なもの,象徴的なものにしているのだから,不思議である.案外,作者はそういうことを,ちやんと計算にいれているのかも知れない.とすると,稚拙でも,不思議でもない.深沢七郎という人は,明治いらいの文学概念にとりつかれている,多くの先輩文学者たちをマンマとたぶらかしたことになる.
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