患者の論理・医者の論理19
悪くなったのは誰のせい?―因果の迷路
新保 卓郎
1
Takurou Shinbo
1
1京都大学医学部付属病院総合診療科
pp.972-975
発行日 2004年11月1日
Published Date 2004/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101066
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Case
しばらく前のことだが,診察中にある患者さんと1時間を超す討論に及んだ.70歳の女性だが,10年前に癌のためにほかの病院で手術を受け,さらにその後,抗癌剤の治療を受けた時期がある.数年前に腰椎の圧迫骨折を起こしたことがあり,その前後から全身の痛みが強いという.このような骨の変化や今の苦しみは,不必要であった抗癌剤のためであり,抗癌剤の使用は医療ミスだったのではないか,というのがこの患者さんの主張である.少なくとも現状では,骨転移の様子はない.患者さんがこの議論をもちだした真意は確認していない.客観的に事実関係を考察した時,実際にどの程度抗癌剤が骨粗鬆症による椎体骨折に関与するかは判断の難しいところだと思う.
筆者は「それはわかりません」といって,診療の中でこの因果関係について議論することを避けた.
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